-父が与えた車が転機 ガソリンスタンド経て稼業へ- 「三洋自動車」社長 濱口正安さん

【「チャンスがあればBMW、MINI以外の車種も販売していきたい」と話す濱口さん=鈴鹿市寺家で】

 伊勢市上地町に本社を置く「三洋自動車」は、祖父の故九一さんが米国や欧州からの輸入車販売会社として昭和39年に京都市で創業し、翌年には郷里の伊勢市に三重営業所(現本社)を開設した。平成29年、2代目の父裕さん(84)から経営を引き継いだ。

 現在は伊勢本社を中心に、BMWとMINIの新車販売店、中古車センター合わせて県内に5店舗を展開。「輸入自動車業界のリーダーとして、お客様のカーライフのより一層の充実を」という理念の下、従業員約100人が年間1000台余を売り上げ、業績を伸ばしている。

 横浜市で3人きょうだいの長男として生まれた。父の仕事の都合で5歳から小6まで横浜から名古屋、津、そして祖父が住む伊勢市へと転居を繰り返した。伊勢市で輸入車販売やタクシー会社、ホテル業などを多角経営する祖父の輸入車販売会社を父が引き継ぎ、母美津子さんはホテルの運営に携わるようになった。明るい性格で、どんなに忙しくても周囲を笑顔にしていた母が大好きだった。

 家業の輸入車販売の仕事柄、父が乗っていた米国車や展示している欧州車を間近に見て育ったが、事業を継ぐ気はなかった。中高時代はお笑い芸人や映画監督、車のデザイナーに憧れた時期もあったが、高校卒業を前に「将来は国際的な仕事をしたい」と思うようになり、そのためにと大阪の大学で英語を学んだ。卒業後は家庭用英語教材の販売会社に入社したが、自分の目指す道ではないと2年で退社して実家に戻った。

 母には辛抱が足りないと叱られたが、なぜか父は何も言わずBMWの新車を与えてくれた。BMWの洗練されたデザイン、安定した走行性能に加えて低燃費など、輸入車人気ナンバーワンの理由が実感できた。

 それをきっかけに車関連の仕事を探し始め、市内に6店舗を持つガソリンスタンドに就職した。「気遣いができる人間になれ」「お客様のおかげで飯が食える」と、教えてくれたオーナーとの出会いが転機となり、自身を見つめ直した。「生涯の師と仰ぐオーナーの言葉が現在の仕事に生かされている」と話す。

 接客やオイル交換、車の洗浄作業などに励んで6年目、仕事ぶりを見守ってくれていた父から「戻って家業を手伝え」と言われ、三洋自動車に入社した。「思えば、失業中の自分に新車をくれたのは、いつか会社を託したいというアピールだった気がする。父の深い愛情を実感できた」と振り返る。

 入社後は、先輩社員らの指導で部品管理やメカニック、セールスに10年間携わり、津、鈴鹿店店長兼マーケティング担当、全店の運営責任者を経て、平成29年に父から経営を引き継いだ。会社の未来を託された時、父の願いを素直に受け止め、社員と共に100年企業を目指そうと心に誓った。

 妻と長男、長女の4人家族。子ども2人は独立して、今は夫婦2人暮らし。休日は長野の戸隠そばや四国丸亀のうどんなど、おいしい物を食べに行く日帰りドライブツアーを楽しんでいる。「子育ても家庭も任せっきりだった妻には心から感謝です。まだ県外移動は自粛中、今はとにかくコロナの終息が待ち遠しい」と話す。

 社員アンケートの実施や、各店舗を回って個々の要望を取り入れながら改善を心掛け、より働きやすい環境作りを図っている。「今後は飲食業界や不動産事業、観光地でのレンタカー事業への進出を視野に入れ、チャンスがあればBMW、MINI以外の車種も販売していきたい」と意欲を見せた。

略歴: 昭和38年神奈川県生まれ。同60年大学卒業。同年英語教材販売会社に入社。同62年ガソリンスタンド入社。平成5年「三洋自動車」入社。同27年県輸入自動車協会会長。同29年「三洋自動車」社長に就任。同年BMW販売店協会理事兼中部ブロック会長、MINI中部ブロック会長。