菰野町永井の三重フリットは、陶磁器釉薬用ガラスの製造卸を手掛ける会社として、父の故洋三さんが昭和43年に同町宿野で創業した。平成21年、父から経営を引き継ぎ、現在は陶磁器や瓦、ホーロー、スマートホン用電子材料などに使われるガラス原料の製造卸で業績を安定させている。
四日市市赤堀新町で、3人きょうだいの長男として生まれた。スポーツマンだった父親の影響で、小2から剣道と水泳を始めた。小5からは英会話教室にも通うようになり、高1の夏休みには、米・オクラホマ州の牧場経営者宅で1カ月間のホームステイ体験を通して多くを学び、視野を広げた。
父に家業を継いでくれと言われたことはなく、高校卒業後は自衛隊員になろうと考えていたが、大学進学を願う母元惠さん(77)の強い勧めで受験勉強に励んだ。広島県の近畿大工学部に入学し、勉学の傍ら、飲食店などでアルバイトをしてゴルフやスキー同好会の活動費に充てた。
卒業後は、理化学用硝子製品などを製造する伊丹市の日電理化硝子に就職。入社から7カ月後、試験管の製造にも慣れてきたころに、母から「ベテラン従業員がけがをして、人手が足りなくなった」と知らせがあり、退社して家業を手伝うようになった。
三重フリット入社後は、これまで培ってきた技術を生かし、調合したガラス原料を溶融炉に入れて溶かす作業から、冷却、乾燥、品質検査、輸送用バッグに詰めて出荷するまでの全てをこなせるようになった。また、溶接技術を習得して、炉の製作からメンテナンスまでを内製化し、コストダウンを図った。
平成21年、国際標準化機構の品質保証規格ISO9001取得に際しての熱意を認めてくれた父から経営を任せられた。「日々品質向上に努力し、常に安心安全な製品を提供する」ことを社訓に掲げた。「トップになって初めて父の偉大さを実感した。社員と家族の生活を守るため、どんな困難からも逃げずに立ち向かっていこう」と自身に誓った。
妻しのぶさん(42)と長男健心君(15)、長女こころさん(7つ)、愛犬ジャックと愛猫アビの4人と2匹のにぎやか家族。結婚後に空手を習い始めて、今は2段の腕前。毎週末には、子どもたちと空手道場で汗を流し、共通の話題で盛り上がる。「家庭の居心地が良すぎて、家でできる仕事だと昼間でも帰宅したり、急にランチに誘ったりするので、妻には嫌がられているかも」と照れくさそうに話す。
社員7人がそれぞれのアイデアを自由に出し合える機会を設け、「ペットとペアで使える食器」など、ユニークな新商品の開発につなげている。「出来栄えの評価が難しい原材料製造業だが、今後は企業向けだけでなく、個人消費者向けの斬新な商品開発に力を注いでいきたい」と力強く語った。
略歴: 昭和47年生まれ。平成7年近畿大学工学部工業化学科卒業。同年日電理化硝子入社。同8年三重フリット入社。同12年県フリーマーケット協会理事就任。同21年三重フリット社長就任。同28年中小企業家同友会幹事就任。