四日市市塩浜の三昌物産は、魚油の集荷・卸会社として昭和24年に祖父の故文二さんが創業した。30年代には塗料原料に魚油が使われなくなったことから、養鶏農家向けの配合飼料の製造卸と、鶏肉・鶏卵の卸売に移行。50年代からは鶏肉加工食品の製造卸を手掛けるようになり、事業の多角化を図り業績を伸ばしている。
「地域社会に愛され、社員に信頼される会社」を企業理念に掲げ、常に新しいことに挑戦し続けてきた創業者の精神を、父久和さん(75)、叔父らを経て、平成28年に引き継いだ。安全・安心・正直な商品作りを通して、従業員約250人が自社へのプライドを持ち、息子や娘を働かせたい会社とすることを誓った。
四日市市泊山崎町で3人きょうだいの長男として生まれた。幼少時は、日本の歴史上の人物に興味があり、大河ドラマを見るのが楽しみだったという。泊山小から中高一貫の暁学園に進み、野球やバンド活動に打ち込んだ。
大の中日ファンだったことから、星野仙一元監督の母校明治大学に進学した。経営哲学のゼミで、「経営とは活(い)きて生きるための学問であり、全ての側面で他の人々との共働によって成立する」と説き、「経営は生活だ」が口癖だった恩師小笠原英司教授の教えが心に残っている。勉学の傍ら、野球やバンドサークルを通じて、生涯の友もできた。
卒業後は第三銀行に就職し、堺支店で預金や貸付業務に励んだ。1年後、祖父の要請で実家に戻って三昌物産に入社した。入社後は、鶏卵のパックセンターやスモーク工場などで現場研修を3年、名古屋営業所で量販店回りや飛び込み営業を5年間務めて本社に戻り、事業部長から専務を経て、祖父の一周忌を契機に社長に就任した。
「勉学に励み、郷土に役立つ人材を」と祖父が始めた三重大生物資源学部生の奨学金制度や、児童福祉施設などにクリスマスプレゼントとしてローストチキンを届ける社会貢献活動は今後も継続していく。「祖父が築いてきた伝統を、自分の代でより飛躍させたい」と話す。
妻弥生さんと子どもたち3人の5人家族。バレエ講師を務める弥生さんの影響で、3人とも3歳からバレエを始めた。年1回の発表会には必ず出掛け、それぞれの成長に目を細める。「家族の笑顔が仕事への活力になる。早く帰りたくなる家庭にしてくれる妻に感謝です」と照れ笑いする。
昨秋、新規事業の大分唐揚げ専門店「とりあん」のフランチャイズチェーン店を市内の大型商業施設にオープンした。将来的には多店舗展開を目指している。「今後は県の養鶏農家を支える商品やサービスの拡充に努め、さまざまな分野に挑戦して地域に雇用を生み出す事業を増やしたい」と語った。
略歴: 昭和52年生まれ。平成12年明治大学経営学部卒業。同年第三銀行入社。同13年三昌物産入社。同25年三重県配合飼料価格安定基金協会理事。同28年四日市青年会議所理事。同年三昌物産社長就任。