桑名市中央町の珈琲専門店「珈琲ホリ」は、昭和43年に創業。父隆和さん(72)が、母福子さん(68)との結婚を機に、祖父母が青果商を営んでいた敷地の一角で、当時ブームになっていた喫茶店を始めた。平成22年、父を継いで2代目社長に就任。現在は、市内と四日市、松阪に合わせて5店舗を展開している。
桑名市で3人きょうだいの長男として生まれた。幼いころは、周囲の人たちを喜ばせたくて、はしゃぎ過ぎてけがばかりしていた。祖父の勧めで、小3から中3までの6年間剣道に打ち込んだ。「礼に始まり礼に終わる剣道の精神と忍耐力を学び、集中力も養えた」と振り返る。
桑名から、四日市の私立高校に進学した。卒業後の進路について、いつのころからか自分が店を継ぐのが自然だと思うようになっていた。父に「大学進学はせず、店を継ごうと思う」と告げたとき、言葉には出さなかったが父の表情から安心感が伝わった。
卒業後、父の紹介で神戸市の老舗珈琲店に就職し、住み込みの修業が始まった。皿洗いから始め、オーナーや先輩らの手元を見ながら、サンドイッチやパフェの盛り付けを覚え、1年後にようやくコーヒーのネルドリップを担当できた。神戸に来て3年半がたち、仕事にも慣れた平成7年の1月、阪神大震災の激震が襲った。
火災は免れたが、店内は食器や家具が壊れて散乱し、再開の見通しも立たない状況だった。「家族がある者は帰れ」というオーナーの言葉で、震災から4日後、三宮駅から線路伝いに西宮北口まで歩き、電車で桑名にたどり着いた。「線路を歩きながら、被災した家々の惨状に涙が止まらなかった」と語る。
両親に無事な姿を見せた後、援助物資を持って神戸に戻り、オーナーに復興を手伝いたいと頼んだが、「助けは必要ない。家業を手伝え」と支援を断られた。後に、あれはオーナーの優しい親心だったと実感でき、経営者としての心構えを教わった。
桑名に戻り、23歳で「珈琲ホリ」に入社。世界各国のコーヒー豆を熟知し、その香りと持ち味を最大限に引き出すベテラン焙煎(ばいせん)職人の父、経理全般を担当する姉とし子さん(45)と手を携え、「焙煎したて・挽(ひ)きたて・入れたて」の3たてにこだわったサイフォンコーヒーと、自家製のケーキ、軽食を提供する店舗を増やしてきた。
「ようこそホリへ」を合言葉に、5店舗合わせて56人の従業員がおもてなしの心で迎える。従業員がやりがいを持って、明るく働ける店が、お客さまの満足につながると、1年前から月に1回、より良い店作りのための勉強会を開いている。従業員のコーヒー・インストラクター資格取得も支援している。
妻友紀さん(40)と子どもたち3人の家族5人で暮らす。12歳の長男と9歳の長女は母親にべったりだが、5月に生まれた次男には、父親っ子に育ってほしいとイクメンパパを目指している。
「この一杯とスタッフの笑顔で1日がスタート」「よそのコーヒーが飲めなくなった」など、常連客の声がうれしい。「香り高い一杯のコーヒーが、感動と明日への活力を与えられる。そんな地域の憩いの場づくりが目標です」と目を輝かせた。
略歴:昭和47年生まれ。平成2年私立海星高校卒業。同3年神戸にしむら珈琲入社。同7年珈琲ホリ入社。同22年珈琲ホリ社長就任。同23年JCQA認定コーヒー・インストラクター2級取得。