いなべ市員弁町のカワセ自動車販売は、自動車修理や買い取り、新車・中古車の販売などをしている。同所をはじめ、計3店舗を持つ。
父親が病弱で仕事ができなかったため幼少の頃から苦労する母親の後ろ姿を見て育った「わんぱくな子どもだったけど風呂の水くみとか家の手伝いばっかりしていた記憶の方が多い」と当時を思い起こす「あの頃はみんなが貧しかったからそれが普通だった」
小5の時、バナナを初めて食べたときの感動は、今でも忘れられない。「こんなにおいしいものがあるのかと、本当に衝撃的だった」と懐かしそうに笑う。
機械いじりが好きだったこともあり、中学卒業後は鉄工所で働きながら、県立四日市工業高校の定時制で学んだ。
高校卒業後に勤めた会社は、毎月100時間以上の残業があり、自分で起業することを決意。21歳の時、2㌧車を購入し、運送業を始めた。「毎日、夜11時に帰ってから農作業をして、朝は7時から仕事。ほとんど寝る時間が無かった」と苦笑する。
苦労のかいがあり、2年ほどでトラックは4台に増え、業績も順調に伸びてきたが、24歳の時に自動車店に嫁いだ姉から「店の仕事を手伝ってほしい」と頼まれ、営業として転職。もともと自動車好きだったこともあり、ここでの経験が自動車販売店を立ち上げるきっかけとなった。
29歳でカワセ自動車販売を設立。仕事が軌道に乗るまでは、4歳年下の妻、則子さんに随分と支えてもらった。負けず嫌いな性格と、従業員に恵まれたことも、大きな力となった。
常に時代を先読みし、新しいことをどんどん取り入れ、事業を拡大するとともに、顧客を大切にしてきた。「事故とかの連絡をもらったら、すぐに駆け付けられるように」と日曜日も正月もなく、基本的には365日欠かさず店に出る。「困った時に居れば、安心するでしょう」と笑顔の隙間から、人柄の良さがにじみ出る。
地元密着で信頼関係を大切にしてきた結果、顧客ら約20人で構成する「カワセ自動車野球クラブ」ができた。結成25年、全国大会出場経験を持つ実力派チームに成長した。自身はオーナーを務める。
ほかにも、「いろいろな人に助けてもらってここまできたから、恩返しのつもり」と、県警の嘱託警察犬指導手として、約30年間にわたって警察犬の育成や指導に尽力しているほか、いなべ地区交通安全協会に所属し、交通安全を呼び掛けるボランティア活動にも熱心に取り組む。縁の下の力持ちに徹し、長年地域の人たちの暮らしを支え続けてきた。
好きな言葉は「根性」。自然と、自身の生き方と重なる。
甘いものが好きで、1日1回は食べる。手軽な気分転換にもつながり、「ケーキと粒あんのまんじゅうが大好物」と顔をほころばせた。
略歴:昭和25年生まれ。いなべ市出身。55年カワセ自動車販売設立、代表就任。