菰野町田光の「アクア菰野辻農場」は、一般事業所での就労が困難な障害者らを受け入れて社会復帰を支援していこうと、平成24年に設立。同年、県の就労継続支援B型事業所の認定を受けた。
同町唯一の農福連携事業として、現在は18歳から60歳までの知的障害や統合失調症などの利用者12人が、社員とスタッフ11人の指導によって水耕栽培によるコマツナやミズナ、レタスの生産と販売をしている。
愛知県弥富町で生まれ、生後半年で母親が亡くなり祖父母に育てられた。6歳の時に、菰野町で石材業とガソリンスタンドを営む伯母夫婦の元に移り住み、高校卒業後は家業を手伝うようになった。22歳で結婚し、3人目の息子の誕生直後に夫が交通事故で亡くなった。
伯父と伯母に助けてもらいながら、持ち前の明るさで子育ての傍らガソリンスタンドの仕事をこなしてきた。平成23年、体調を崩したことに加え、セルフスタンドの時代が進んできたことから閉店を決めた。
農業後継者の減少で、地域に目立つようになった休耕地を活用する農業を次の仕事に選んだ。露地栽培でなくハウス水耕栽培なら、天候に左右されず年間を通して新鮮野菜の供給ができる。「この農場で障害者を受け入れよう」と考えた。
障害者福祉について学び、自立支援の理念の下、共に働きながら利用者それぞれの能力を引き出し、社会性と協調性を身に付けてもらい、社会復帰の手助けをしていこうと決めた。
敷地約4千平方㍍に建つ6棟のハウスが水耕栽培農場。利用者らは、バイオ技術を修めた農場長らの指導で、種まきから育苗トレーに移植、水耕ベッドに定植して施肥、収穫、袋詰め、出荷まで、作業を分担している。葉物野菜は夏場で1カ月半、冬場は3カ月ほどで出荷できるまでに成長する。
利用者らは仕事に慣れるにつれ、それぞれの作業工程のエキスパートとして生き生きと働いている。「こんな日がくるとは思わなかった」「不登校だった子が、毎日喜んで農場に通うようになった」など、保護者らの言葉に、経済面での苦労も忘れてしまう。
収穫した野菜の約半数は全国チェーンのレストランや町内の学校給食用として出荷し、残りは四日市と鈴鹿市のスーパーマーケットやJAみえきた「四季菜」各店の産直売り場に並ぶ。今年から農場での直売も開始した。
また、伊賀市の2農場と協力して開発した画期的な低カリウム野菜「アクアリーフ」も6棟中2棟で栽培し、「ドリームリーフ」の名称で「健康野菜頒布会」を通じて県内外の百貨店で販売している。カリウム摂取を制限されている腎臓病を患う人らの「温野菜しか食べられなかったのでうれしい」「生サラダを味わえる」と、喜びの声が届いている。
「福祉も知らず、農業経験もなかったが、農場長と看護師資格を持つサービス管理者をはじめスタッフ皆の支えでここまでやってこられたことに感謝です」と話し、「今後は、近隣の休耕地に水耕栽培農場を誘致して、協力し合える体制づくりをしていきたい」と目を輝かせた。
略歴:昭和22年愛知県で生まれる。同40年県立四日市商業高校卒業。平成24年株式会社アクア設立。代表に就任