手間かけひと味違う麺 小学時代から家業手伝う 大矢知素麺製造「渡辺手延製麺所」社長 渡邉茂さん

「手間を惜しまずに作り上げたひと味違う麺を、全国各地の人々に味わっていただきたい」と話す渡邉さん=四日市市川北の渡辺手延製麺所で

 四日市市川北の「渡辺製麺所」は昭和36年、地域の製麺所で修業した父の故政一さんが創業した。平成17年、「渡辺手延製麺所」に社名変更し、父を継いで47歳で社長に就任した。上質の小麦粉で手作りする冷や麦を中心に、そうめん、うどんなどの無添加自然食品「金魚印大矢知手延麺」の伝統を守り続けている。

 大矢知地区は、江戸時代から農家の冬の副業として麺作りが盛んになった。昭和30年代には300軒以上もあった製麺農家が、長年の経験と感、手間を要する作業が敬遠されて後継者不足に陥った。石油コンビナート建設による働き手の減少もあり、今では10軒足らずになった。小麦粉の仕入れ先によって3グループに分かれる製麺所の中で、6軒が加盟する金魚印グループに属している。

 四日市市で3人きょうだいの長男として生まれた。小学時代は、早朝から父の仕事を手伝ってから登校していた。繁忙期は遅刻することが多かったが、事情を知る担任に注意されることはなかった。放課後は遊びたかったが、叱られるのが怖くて真っすぐ帰宅していた。「要領よく立ち回る双子の弟がうらやましかった」と振り返る。

 大矢知興譲小、朝明中から鈴鹿高校に進学。中・高時代も、友だちと一緒にやりたかったクラブ活動を我慢して家業を手伝ってきた。卒業後、体が弱かった父と母由子さん(87)の期待に応え、父に弟子入りした。麺に適した小麦粉と赤穂の塩、朝明川の伏流水と鈴鹿おろしの寒風が織りなす大矢知伝承の技を引き継いだ。双子の弟明さんも、6年間務めた自動車関連会社を辞めて家業に戻り、兄弟で麺職人の道を歩んでいる。

 社長就任の翌年、父が他界した。亡き父の技と精神を守り、早朝4時半から仕込み作業を始める。天候によって塩分濃度を調節しながら粉のこねから始め、出社した従業員と家族合わせて8人で製麺、延ばし、乾燥、包装まで20工程の作業を分担している。

 10数年ほど前から「お中元にもらった冷や麦のおいしさに驚いた」「送ってほしい」などの便りが各地から届くようになり、妻美千代さん(53)は、それまでの卸販売と直売に加え、ネット販売を思い立った。パソコン教室に通い始め、9年前にネットショップ「うまくてご麺」を開店した。「もちもち食感がやみつき」「喉越し最高」などの喜びの声とともにリピーターが増えている。

 2年前、地元の九鬼産業と連携して開発した、太白純正胡麻油使用の冷や麦も好評を得ており、ネットショップ冷や麦の部では1位を独占している。食べてくれた人々が書き込んだ感想を、美千代さんとチェックしては「ネット販売を始めて良かったね」と喜び合っている。「手間を惜しまずに作り上げたひと味違う麺を、全国各地の人々に味わっていただきたい」と語った。

  

略歴:昭和33年生まれ。同52年私立鈴鹿高校卒業。平成17年渡辺手延製麺所社長就任。