努力して運つかむ 日ごろから気配りを大事に 伊藤製作所代表取締役社長 伊藤澄夫さん

「日頃から気配りを大切にしている」と話す伊藤社長=四日市市広永町の伊藤製作所で

四日市市広永町の伊藤製作所は、順送り金型設計製作および精密プレス部品加工を中心に事業展開している。フィリピンとインドネシアにも工場を持つ。昭和20年に父親の正一さんが創業した。著書に「モノづくりこそニッポンの砦」がある。

子どものころから、従業員と仕入れ先を大切にする父親の後ろを見て育ってきた。その影響を受けて、小学3年生から中学3年までは、仕事が終わって入浴してから帰る職人たちのために、風呂たきをするのが日課となっていた。「『いかに少ない燃料で、効率よく湯を沸かすことができるか』を追求し、いろいろ考えた」と笑い、理系の一面ものぞかせる。

立命館大学経営学部で学び、卒業後は伊藤製作所に入社。もともと漁網機械などの部品製造業として設立した会社だったが、父親は金型を作ることを目標としており、入社後は自身がその役割を担うよう命ぜられた。

金型作りに専念しながら、名城大学工学部機械学科の夜間部に編入し、知識を学んだ。仕事が終わってからの授業や週末の実験など、多忙を極める日々の連続だったが、なかなか事業として成功せず、一時は倒産を覚悟するまでの状態に。「それでも最後まで父は口出ししなかった」と振り返り、父親の偉大さを再認識する。

どん底の中、金型の将来性を見込んだ金融機関からの融資が決まったことを皮切りに、次第と取引先からも金型技術が認められるようになり、無事ピンチを脱出することができた。「運がよかった」

半生を振り返りながら「事業は7割が運だと思っている。『あの時、あの人に会っていなかったら』ということはある。もちろん、努力していないとものにはできない。そのために、日頃から気配りを大切にしている」と話す。「自分以外は客と思って接している」

社員は褒めて伸ばす。相手を傷つけないよう怒り方には気を付ける。スーパー銭湯に誘って、文字通り「裸の付き合い」をすることもある。そんな風に従業員との信頼関係を大切にするところは、やはり父親譲りなのだろう。

「自分が言われた立場になったら、どう思うかを常に考えて話すようにしている」と思慮深く、「社員のやりがいを引き出すことが自分の役割。会社に来るのが楽しいといい仕事ができる。いい仕事をすると客のためにもなる。技術も設備もだが社員の働きぶりには絶対の自信がある」と従業員に寄せる信頼は厚い。

人を楽しませるのが好きで、高3の時から趣味で始めた手品のレパートリーは、自分で考えたものも含め数え切れないほど。持ちネタを披露して、場を和ませることもしばしば。

忙しい合間を縫って、各地の大学で中小企業論や海外事情などについて講義することも多い。「資源の少ない日本で、ものづくりは他国に負けてはいけない」と技術者としての熱い思いを語った。

略歴:昭和17年生まれ。四日市市出身。昭和40年伊藤製作所入社、昭和61年同社代表取締役社長就任。現日本金型工業会・国際委員長、中京大学大学院ビジネスイノベイション研究科客員教授など。