三重県鈴鹿市白子の「永田水産」は、白子漁港近くの鮮魚直売店「魚魚鈴(ととりん)」のオープンと同時に平成21年に創業。市漁業協同組合と共同で同店を運営している。店頭には伊勢湾で捕れた新鮮な魚介類が並び、市内外から常連客が買い求めに訪れる。営業は午前9時半から午後1時まで。火曜、水曜日は休み。
季節や日によって水揚げされる魚介類は異なるが、7月から8月にかけてはマゴチ、カマス、ガンサエビ、クロダイ、ワタリガニ、アサリなどの前浜物約30種が並び、干物や加工品、週末には地元農家の新鮮野菜も販売している。年末にはブリやズワイガニ、イクラ、カズノコなど正月料理に欠かせない海産物も取り扱っている。直売に加え、亀山・鈴鹿両市の食品スーパーや飲食店にも卸している。
9月になるとサワラの刺し網漁を始める。忙しいときは店頭に立ち、「この時季の脂の乗ったサワラは絶品、バーナーであぶって氷水で締め、ポン酢で食べると最高」「コチは刺し身に! 薄造りがうまいよ」など、お客さんに調理法を伝授する。後日、再来店したお客の「初めて刺し身で食べた。最高だった」「また、おいしい食べ方を教えて」の声がうれしい。
鈴鹿市で2人きょうだいの長男として生まれた。曾祖父の代からの漁師で、幼少時から祖父昌一さん(90)の船に乗せてもらい、祖母と一緒に定置網漁を手伝っていた。「大きくなったら、おじいちゃんのような漁師になりたい」と、たくましい祖父の姿に憧れた。
小学時代はサッカーに打ち込んだ。父浩吉さん(62)に「中学を卒業したら漁師になりたい」と頼んだが、「まだ早い。社会経験をしてこい」と言われ、建設業でアルバイトを始めた。3年後、「そろそろ手伝ってくれるか」と父から声がかかり、19歳で市漁業協同組合の正組合員になった。
祖父や父の船に乗って漁を手伝い、のり養殖の仕事も覚えていった。翌年、思いがけず漁船を入手することができ、家族皆が喜んでくれた。「智漁丸」と名付け、アサリやトリガイ、アオヤギなどの漁を始めた。「自分の船で漁をして、初めて一人前の漁師になれた気がした」と振り返る。網が破れた時は、いつの間にか祖父が直してくれていて感謝で胸が熱くなった。
現在は2隻の漁船を使い分けている。今夏はアサリが豊漁で、毎朝5時前に出漁している。資源保護のため漁獲量が定められており、75キロ捕ったら港に戻る。
漁師になって21年。定置網漁や底引き網漁などの漁業許可をはじめ、令和元年には市内でも数少ないサワラの刺し網漁の許可を取得した。高速で真っすぐ泳ぐサワラが、海面に垂直に張った網に刺さることから刺し網漁と呼ばれている。サワラの幼魚サゴシがすり抜けるよう、網目の大きい専用網を使って成魚だけを狙い、こちらも資源保護につなげている。
趣味は10年ほど前から始めたゴルフ。仕事関係の知人や友人らと月2―3回はコースに出る。「芝生を歩く感触は、緊張感が伴う船上と違ってリラックスできる。アフターの交流も楽しく、仕事への活力になっている」と話す。
「サワラ漁を強化して漁獲量を増やすことと、より多くの種類を店頭に並べられるようにすることが目標。従業員6人と共に、お客さまの食卓に新鮮な海の幸をお届けしたい」と熱く語った。
略歴: 昭和57年生まれ。平成9年市立大木中学校卒業。同12年鈴鹿市漁業協同組合正組合員。同21年「永田水産」創業。令和2年鈴鹿市漁業協同組合青壮年部部長就任。