ベスト付くし日々前進 お酒やめ自転車通勤で鍛錬 睦化学工業社長 滝本永次郎さん

「企業のトップとしてベストを尽くす」と話す滝本さん=四日市市万古町の睦化学工業で

 四日市市万古町の睦化学工業は、戦後、日本に駐留した連合国軍(GHQ)に供給する壁材(プラスター)の製造、販売会社として昭和20年に創業。その後、地場産業である萬古焼の陶磁器型材用焼石膏(こう)製造に移行し、同58年、父吉也さんの遺志を継いで35歳で3代目に就いた。

 昭和55年から56年にかけて、事業の多角化を模索し始めた。父親に相談しながら、自社ブランドの義歯や虫歯の充てん剤などの歯科用治療剤を研究開発。口腔(こうくう)衛生用材料と合わせて約100アイテムを主力商品として、現在は国内だけでなく東南アジアを中心に世界10カ国に販路を拡大している。

 東京都港区で、3人きょうだいの長男として生まれた。小学校入学を前に、当時、単身赴任中だった父親が住む四日市に移り住んだ。しばらくは言葉遣いで戸惑うことも多かったが、すぐに友達ができて毎日暗くなるまで外で遊んだ。

 中・高校6年間は軟式と硬式テニスに打ち込んだ。大学は、父親の希望もあって、祖母が住む東京の実家から通える日本大学に進んだ。経済学を学ぶ傍ら、クレー射撃クラブに籍を置き、3年生の学生選手権で優勝して周囲を驚かせた。「スポーツに打ち込んだ、忘れられない青春時代です」と懐かしむ。
 
 「スポーツを通して、途中で投げ出さず、最後までやり抜く精神を学んだ」と振り返る。卒業後は、エスエス製薬で営業を1年半、吉野石膏で6年間経理の経験を積み、32歳で睦化学工業に入社した。

 毎晩のように、父親と飲みながら語り合った。「バイクに乗るな、ヨットに乗るな、冬山に登るな。万一の時、必ず他人に迷惑を掛けるから」。「思慮と配慮を忘れず、思い付きでしゃべるな。正しく相手に伝わるように丁寧に」と、体験から得た教訓をよく話してくれた。それらは、父亡き後も約束として胸に刻んでいる。

 「納期、サービスもまた品質なり。誠実に努力すれば必ず収益は上がる」の社訓を基に、高機能で安定、安心の製品作りのため、社員60人が一丸となって職場改善を図っている。

 ソフトボールやボウリング大会、食事会などで社員との親睦を深め、何でも話し合える社風づくりに努めている。チームメンバーの足を引っ張らないよう、5年ほど前からは好きなお酒をやめ、自転車通勤で足腰を鍛えている。

 フランスの大学の修士課程で学ぶ長女ら3人の子どもたちには、自由に将来を決めてほしいと願っている。「企業のトップとしてベストを尽くし、残った時間を家族と共に過ごす。一生懸命に、日々一歩一歩前進していきたい」と、笑顔を見せた。

略歴:昭和23年生まれ。同42年県立四日市高校卒業。同48年日本大学経済学部卒業。平成12年日本焼石膏工業組合理事長に就任。