四日市市北小松町の堀製麺は、父親の哲さんが昭和26年に創業した。うどんやそばの冷凍麺、ゆで麺、生麺など業務用の製造販売を中心に事業を展開し、現在は1日1万食を製造している。
3人きょうだいの末っ子長男。両親が仕事で忙しく、「お姉ちゃんっ子で、姉や近所の人がよく面倒を見てくれた」と話す。「毎日のように川遊びや石蹴り、メンコをしてめっちゃ楽しかった。あの頃は何も考えなくてよかったし」と懐かしむ。
10歳で父親が病気で亡くなった。父親との思い出はほとんど残っていないが、「写真の姿が今の自分にそっくり」と語る。「父親が早くからいなかった分、家族が協力できたのかも」と振り返る。
父親の分まで一生懸命働く母親の姿を見るうちに、自然と「自分がしっかりしなければ」との思いが強くなり、中学生の頃から休日は配達を手伝った。
「商売の役に立つのでは」と思い、商業高校に入学。卒業後、しばらくはそのまま実家で働いたが、滋賀県の製麺所で2年間修業を積み、製造や配送の基礎を学んだ。「今思えば、怒ってくれる人、注意してくれる人の存在が一番大きかった。短い期間だったが、働くことの大切さや物作りへのこだわりなど人間的にも成長でき、貴重な経験だった」と話す。
実家に戻ってからは、製造現場や営業を任された。現場では水や粉を使うため、機械の故障も多かった。「麺のことは分かっても、機械のことはなかなか」と悪戦苦闘しながら改善に向け取り組んだ。
もともと人見知りや物おじしない性格が営業に向き、「不思議とどこに行ってもかわいがってもらえた」と笑顔を見せる。
社長就任後は、販売価格の低下に伴い、スーパーとの取引をやめ、事業の方向転換を図った。「当時はスーパーとの取引が全体の5割を占めたから、決断には勇気がいった」
新商品の開発に力を入れ、県産小麦「あやひかり」に全粒粉、黒米、伊勢茶、モロヘイヤ、カボチャなどを練り込んだオリジナル冷凍麺を数多く製造。3年ほど前からは、ヨーロッパを中心にオランダやベルギーなど海外への輸出も始めた。
県製麺協同組合理事長として全国のイベントに参加し、伊勢うどんの普及にも尽力。地元の小学校で手打ちうどんやそば作りの講師を務め、仕事以外でも積極的に活動する。「もっとレベルアップして、たくさんの人に食べてもらえるよう魅力を伝えていきたい」と意気込む。
略歴:昭和35年生まれ。四日市市出身。同57年堀製麺入社、平成18年代表取締役就任。県製麺協同組合理事長、四日市倫理法人会会長。