鈴鹿市広瀬町の農産物直売所「みどりのだいち」は、鈴鹿市や亀山市など地元の農産物を中心に販売している。現在は約300戸の農家と契約し、野菜だけではなく肉や卵、加工品千点近い商品を扱う。
農業を営む両親の下、15歳年上の兄が酪農を始めたのは4歳のころ。家の手伝いとして、牛の餌やりなどの世話係をずっとしてきたことから、大学は北海道の酪農学園大学へ。そこで、さらに専門的な知識や技術を学んだ。
卒業後は専門性を生かし、県職員として37年間、畜産や農業技術指導に当たり、県の農業支援に尽力してきた。「県庁時代の先輩が今の自分を育ててくれた。いろんな人とのつながりがあったからこそ、今の仕事ができている」と懐かしそうに振り返る。
農業者の指導をするうちに、「農家が生活できる場所をつくらなければならない」との思いが次第に強くなった。「自分(生産者)たちの思いが出せる店をつくろう」と、作物を販売する店舗の経営について、県職員として農家の後押しをしていたが、本業の生産と販売店経営の両立は農家にとって難しい面もあり、自身が起業することを決意。定年を前に59歳で早期退職した。
株式会社を設立後、直売所「みどりのだいち」が開店して、今年で4年目。経営は大変なことも多いが、固定客が増えてきた。水耕野菜を年中欠かさないようにしたり、価格の変動が少ないよう気を付けてきた。中には、生産者名で商品を購入する人もあり、生産者のやりがいにつながっている。
「大きい八百屋と思ってもらえれば。それが目標」と話す。店に並ぶ野菜の食べ方や選び方などを聞かれたら、お薦めをアドバイスする。時には逆に、買い物客からおいしい食べ方を教わることも。「それをまた次のお客さんに教えたり、同じ目線で話ができるのも魅力の一つ」と笑う。
生産者をはっきりさせ、鈴鹿市産の大豆を使った納豆や豆腐、同市産の豚肉で作ったボンレスハムやベーコンなど、ここでしか買えないオリジナル商品もいくつかあり、「安心・安全」にも力を入れる。
「この店は農家の代弁者」と話し、「買ってもらう人に地元の農産物の良さをどう伝えていくか」と、直売所には食育を目的としたレストラン「みどりのだいち」を併設した。
店頭に並ぶ旬の野菜をふんだんに使った料理が、日替わりランチで楽しめる。「料理として食べて、参考にしてもらえれば」と、必要ならばレシピも教えてくれる。
「作る人にも生活がある。それを守るのも店の役目」と話す。新しい販売形態を模索し、今月から東京向けにネット販売を立ち上げる予定。「鈴鹿価格で販売し、店頭商品をスマホで選べるようにしたい」と意気込む。
「まだまだやりたいことはたくさんある」と見せる笑顔は本当に楽しそう。農業にかける思いは、生産者にも負けない。
略歴:昭和23年生まれ。鈴鹿市出身。同46年三重県庁入庁、県中央農業改良普及センター所長などを経て平成20年退職、同21年鈴鹿みどりの大地設立。