皆さま、新年あけましておめでとうございます。
昨年ほど、大きな経済事件が続出した年は珍しかったと思われます。いずれも数年前から識者によって指摘されてきたことではありました。しかし、破たんが顕在化した時の日本国民の反応は予想以上に劇的でありました。
長引く消費不況の原因の一つは、政治家の無為無策、官僚の慢性的な腐敗体質、秀才官僚の意外な無能さの露呈等々に自衛手段を講じたにほかありません。各種規制緩和、あるいはいわゆる金融ビックバン、国際化、自由化、そういったことを押し進めていけば日本の抱えている諸問題は解決するのでしょうか。
デファクト・スタンダード(国際標準)を守らないから日本は駄目なんだ。国際ルールを尊重しないうさん臭いところがある業界の膿(うみ)を、この際徹底的に出すべきだ、という議論は書生論としては異論の余地がありません。けれど私は忘れていません。スキーのワールドカップ複合で荻原選手が勝ち続けた時、彼の得意種目であるジャンプの配点が減らされ、苦手の距離の配点が増やされるというルール改正が行われたことを。
自動車のF1レースにおいて、ホンダが連戦連勝を続けていたら(86年、87年世界チャンピオン)ホンダ得意のターボ・エンジン禁止をさっさと決めたことを。オリンピックにおいても、水泳で、潜水泳法禁止、平泳ぎの足のけり方でルール改正があったことを。(その陰にはいつも日本の有力選手が存在していました)。
三重県の誇り、伊勢神宮の内宮前にはおかげ横丁があります。その中の参宮歴史館・おかげ座を年末訪れました。昔の伊勢路を紹介するという意図の下で、歴史館とテーマ館の二つの魅力ある仕掛けは非常に興味深いものがあります。今回、私が気になったのは、テーマ館に展示されている五分の一に縮小された伊勢参宮街道の宿屋の帳場でした。
居眠りしている主人の後ろに張ってある銀と金の両替表に目がいきました。銀一貫目―小判十三両といった具合に両替の早見表があるわけです。これこそ明治維新の節に、日本国内の銀相場と海外諸国の銀相場の価格の差に乗ぜられて、大量に銀が海外に流出した印でもあるわけです。
日本の預金金利の二十倍の利息が付く海外債権が飛ぶように売れているそうです。五千億円、八千億円といった範囲で売り切れ続出だそうです。ただし為替相場の変動による危険は自己負担であります。いわゆる、五・一五事件が昭和五年に起きたころと同じ、円売りドル買いに狂ほんしているのがわが国民でもあります。それも冒頭に申し上げたように、お上が頼りにならぬからでありますが、思わぬ円高で償還期には元本割れにならねばいいのですが。
あれやこれやでうっ屈した小生は、一夕(いっせき)ジャーナリストの大先輩、経済記者の大巨人、三重県出身者でもある尾鷲市三木浦出身の三鬼陽之助氏の門をたたきました。
一九〇七年日露戦争のさなか生まれた九十歳の大先達に厚かましくも尋ねました。
周室の衰えんとするや、老子は牛車に乗りて去ろうとし、関守が乞うて残さしめたものが道徳教であると聞きます。先生願わくば後輩に教訓を垂れんことをと。
それまで「僕は子供のときから伊勢新聞を読んで育ち、漢字はすべてこれなんて読むのと伊勢新聞を見せて、周りの大人に聞いて覚えた。将来、伊勢新聞に載るような偉人になろうと決意したのだが、初めて伊勢新聞に載せてもらったのは、選挙違反で捕まった記事でそれを拘置所で見たのさ」などと冗談を連発して「よく来てくれた」と上機嫌だったのが、黙って机に向かい書斎の九十八冊ある御著作の中から、一冊を選び出し、墨書して進呈して頂けました。「単純な心で複雑な人生を味わえ」と書かれていました。
皆さま、今年一年どのような年になろうとも、この心を持って当たろうではありませんか。新年にあたり社長としての心構えを申させて頂きました。社員一同、事実の報道に全力で取り組むことをお約束して新春のごあいさつとさせて頂きます。