’02  「傘を持っている人」

 三重県民の皆さま、新年おめでとうございます。
昨年は年初に予想された通り、大変な一年でした。それでは今年一年はどんな年になるか、言うもはばかられますが、昨年以上に大変な年になるのは残念ながら認めざるを得ないでしょう。「マスコミが不況だ不況だ、というから不景気になる」とはもう言われないでしょう。デフレスパイラルもここまで来ると、「景気とは気分のものだ」などと悠長なことを言っている場合ではなくなっています。
二〇〇二年四月から小泉内閣の緊縮財政は始まるわけですから、不況は四月からが本番ということになります。

■ 昭和35年以来の経済常識が変わった

 政治家は何をしている、とか官僚は無能だ、とか叫んでも無意味なことであります。政治家に景気を良くする能力や力はありません。官僚にもありません。能力あるふりをしていたのが、ないことが白日の下にさらされたといった方がよいのかもしれません。政治家の職務は税金の配分先を決めるだけであり、役人は税金を使うことが仕事であります(金を稼いだことのない役人が参加している第三セクターと称する組織が、日本中すべて赤字なのはご案内の通りです。

 その赤字を補うために血税が注ぎこまれ続けているのも報道済みであります)。たまたま経済成長が続いていましたから(日本国民の努力により税収は増えつづけていたから)、日本国家の下、独特の日本的慣行(談合は日本文化だとの珍説まで出ました)を用いた社会システムは、役人によりそれなりにうまく諸矛盾を覆い隠して、運営されてきました。

 日本国独自の国家社会主義が機能してきたのです。しかし、外部環境が変わり、市場経済を導入せざるを得なくなった以上、「株を守りて兎を待つ」(=早く公共工事を発注してくれ)という姿勢では窮乏を免れにくいと言わざるを得ません。成長が終わり、人口が減って社会が老化していく状況の下では、負担できる人から取って、必要な人に分配するという社会主義はやっていけなくなりつつあります。なお誤解のないように申し上げておきますと、小生は社会主義も資本主義も、どちらかが絶対的な善であり、他方が絶対的な悪だと言っているわけではありません。また社会的弱者のための、一定の保護が必要なのは論を待ちません。

 一八五八年に日米修好通商条約が結ばれてから、わずか九年後の一八六七年に江戸幕府は大政奉還して滅亡しています。このたびの日本の危機は、アメリカの圧力による第二の開国がもたらしたものではないでしょうか。

 新年にあたり二つの日本国民の希望的見通しを述べさせてください。一つは、「日本がダメになろうと繁栄しようと、あなたには関係ないのではないか」「あなたの人生はあなた次第なのである。あなたは日本と運命を共にするわけではない。日本はダメになるだろうかと、いつも日本を主語にして考えるその発想がダメなのである」「この先お天気が悪くなることばかり心配しても仕方がない。日本全体が雨でも傘を持っている人は困らない」(竹内靖雄成蹊大教授)という発想です。「これまでのように、会社の中で生きる、官の保護のもとで生きるということはあきらめるしかない」と悟ったとき、大きな青空を発見した心地がしませんか。

 二つ目は、日本経済が大きく成長路線に再復帰する可能性があるということです。ただし、与条件を大きく変更せねばなりません。二〇一〇年ぐらいから日本の人口がどんどん増え始めて、二億人ぐらいになることが条件です。出生率が上がるということではありません。移民を受け入れるということです。どんどん落ち込んでいく日本経済を立て直すにはこれしかないとなるには、あと十年は必要とされるでしょう。黄金の国ジパングに入国して、働きたい外国人は無数にいます。

 毎年百万人単位の移民を受け入れて(三重県が毎年一つできるようなものです)、社会保険・年金に加入させれば、健保・年金財政の破たんも回避できます。そうなったとき、アメリカ型国家となります。物質的には豊かだが、社会的には緊張が高い、治安の悪い物騒な社会です。ベトナム系日本人、タイ系日本人、インドネシア系日本人、中国系日本人といった日本人国家が成立します。好むと好まざるにかかわらず、パンドラの箱を開けてしまった(開けさせられた)日本はそうなっていくでしょう。

 いずれにせよ、五十年後の日本人は今とまったく違う国民になっているでしょう。伊勢新聞はその間の情報を刻々県民の皆さまにお届けすることをお約束して、新年のあいさつとさせてください。健やかにこの一年を過ごされることを心よりお祈り申し上げます。