「エルピーダメモリー1社を残してDRAMから撤退した日本半導体産業。
1980年代半ばに世界を制した技術と品質は、いまや不況のたびに膨大な赤字を生み出す元凶と化した。
一体、なぜ、こんなことになってしまったのか?
半導体産業の技術者として出発した社会科学者が、
今、そのすべてを解明する。」
失敗に学ぶべきだ
最近読んだ本の中では群を抜いて面白い。しかも読み進めるうちに、
新聞業界と平仄を同じにする部分が多く、省みて粛然とします。
全ての国内産業にも当てはまるとも思われます。
エルピーダメモリー社も、公的資金の注入300億円と国内銀行融資1300億円を基に、
台湾のメーカーと合弁して生産を続けているが、現状の低利益体質が改まらない限り再建は厳しいという。
日本のDRAM業界は1985年当時世界シェア80%、現在10%以下となってしまった。挽回は不可能であろう。
その間、日立2万人、東芝1万8800人、富士通1万4600人、NEC4000人などの大規模なリストラが敢行されました。
日立においては、半導体関係部門に対して「40歳、課長職以上は、全員責任をとって退職してもらいたい」となり、
著者も退職に追い込まれたわけです。
京都大学工学部修士卒業、のちに工学博士号収得の彼が、第一線で設計を16年間行ってきたこと、
あちこちコンソーシアムと称する企業連合に出向させられて経験したこと、退職後、社会科学者として再出発して、
半導体関連の企業をインタビューして、日本のみならず世界を回った体験記がこの本には記されてます。
私がしつこく繰り返す、「誰も知らないことを誰にもわかる文章で書く」ことに半ば以上成功しています。
(先端技術の解説も多いですから、シリコンウエハ・レジストマスク・パーティクル・エッチング・リソグラフィといった単語が出てくるのは仕方ありません)
過剰技術で過剰品質、過剰性能かつ高価格の製品を作ってしまうことがグローバルなビジネスで敗北してしまう原因だと湯之上氏は主張する。
(ほとんど正しいでしょう)
私達も謙虚に受け止めねばなりません。デジタル編集システム導入において、さして必要でもない、
あれば便利だ程度の仕様を「ソフト会社」に要求して、納期を大幅に遅れさせてしまわなかったか。
社内の内装、備品に至るまで「センスの良い」高価格の製品を発注していなかったか。
著者は、特注品を装置メーカーに求める日本メーカーと、既製品(汎用品)を装置メーカーに求める韓国・台湾メーカーとの証言を装置メーカーの従業員から聞き出しています。
これからの製品発注は製品に人間が合わせていかなければ、収縮する日本経済に生き残っていけません。(続く)