前回に続いて、出版界を鳥瞰(ちょうかん)しながら、投資のことを考えてみたいと思います。
出版業界は売れそうにもない本でもひたすら出し続け、流通網に(馬鹿のように)流し続け、当りを待つ(ベストセラーを待つ)業界なのです。一種のギャンブルの如きものになっているようにも見受けられます。こんなことを書くと、執筆者は出版業界から総スカンを食って日干しにされる嫌いがあるから書けない、業界のタブーなのです。
ひたすら無配株、低位株を買い集めて、当りを待つ投資家と一脈通ずる点があるのではないでしょうか。一方はそれしか道がない、それで今まではまがりなりにもうまくいって来た出版業者。戦略的にじっくり数年がかりの投資であると確信して実行してきた投資家もおみえですが。
出版業界=水商売論とはここから出ている文言です。
証券業界、株式投資の世界がバブルだったように、出版業界もバブルだったのです。金銭的な件を除いても二つの大きなバブルがありました。
出版社の二つのバブル
一つは企画のバブル。売れそうにもない本を出し続けるチエックの甘さ。チエックする能力・識見・総合的判断能力の不足あるいは欠如です。
二つ目には人材のバブルです。売れる企画を出さない限り編集者ではないはずであります。売れない本なら誰でも出せます。そんな企画力のない社員が多数いて、編集者としておさまっていられる出版社とはどんな組織なのでしょうか。
「出版は不況に強い」という神話は脆くも(もろくも)崩れ去りましたが、編集者の企画力の貧困を憂えていた、老管理職の諸先達の不安は的中しました。
不況だから売れる本があるはず。
企画力が貧困でなかったら、不況もチャンスのはずです。不況の原因はなにか、百家争鳴のごとく原因を探る書物は出ていますが決め手となる、読者を納得、得心させる十分なものは出ていません。そのデフレ不況の中から、どうやって生き残っていくかを示した本もたくさん出ていますが、買って得したと思わせるだけの内容を持った書籍は少ないです。これはひとえに編集者の責任です。
鮮やかな切り口を持つ編集企画を立て、しかるべき執筆者を探すことができていないのです。企画力がないゆえに、本が売れないのを不況のせいにしているのです。(念のためにくどいようですが申し上げますが、私は投資の世界の話を同時に、しているのです。)
「悪食生存力」
出版業は本来「悪食生存力」(あくじきせいぞんりょく)があると言われてきました。それが前述の「出版社は不況に強い。」神話にもつながっていたのです。
どんなものでもエサにして食べて生きていくということです。
太平洋戦争で敗戦したら占領軍が来るのだからと、昭和20年に日米会話手帳を発行して一大ベストセラーを出した才覚あふれる出版人もいたのです。当時の日本の人口が6000万人のころに、9月15日に発行開始して12月までに360万部以上を売ったというのです。全体としては32ページしかない本だったのです。当時は不況ではなかったのでしょうか。とんでもない。食うものも無い、ねぐらも無い、着る物も無い時代だったのです。衣・食・住すべてがまったく不足していた時代でした。
もちろん本を買う金も無い時代だったでしょうが、人々は争ってこの本を買ったのです。何かを求めて、この本を購入すれば求めるものを与えられると信じて。いわんや、不安が一杯の現代においてや、企画さえ良ければ本だろうが、自動車だろうが、フアッションだろうが数百万セットは簡単に売れるはずです。