光ファイバーとうどん3

時間だけは平等だ

 ある夏の日、ガンちゃんとゴルフをしました。ハンディ16のプレイヤーである彼は、週に五回コースに出たこともあるそうです。以来、ついたあだ名が、周五郎だそうです。永く、コンペと言うと周五郎を入れろと言われていたそうです。北陸に二泊して、片山津カントリークラブで二日プレイした後、集合地である駅前まで帰ってきた四人連れは、夕食を取ってジョッキを傾けた後、麻雀をやろうかと言うことになりました。

 二日にわたった遊び仲間との縁と、軽い興奮状態に、なんとなく別れ難いものがあったような気がしたからです。それはとんでもないお人よしな錯覚であったことを、すぐその後で思い知らされます。

 雀荘を探して麻雀が始まったのは夜の九時を過ぎていました。北陸の旅とゴルフの余韻をしゃべりながら牌を積もって楽しんでいましたら、いきなりガンちゃんが四暗子(すーあんこ)をあがりました。役満貫です。

 子の役満貫積も上がりですから、親一六〇〇〇点、子八〇〇〇点払いです。各自一五〇〇〇点持ちの二〇〇〇〇点返しのルールですから、親はパンクです。(関西流に言うとブーです。)つまりサドンデスになったわけです。始まって十分経たないうちに、最初の半荘(はんちゃん)が終わりました。

 三人へこみのいわゆるマルエーのトップと役満の祝儀で十万円近くを握ったガンちゃんは、二回戦へ臨もうとする私達三人にこう言い放ちました。

 「俺は豆腐屋で朝が早いから、これで帰る。おばチャン勘定してくれ」

 何をきつい冗談をかましているのかと小生は苦笑していました。トイレに行ったのだと思っていたら、いつまでも帰ってきません。

 「ガン、ちょっと待て」

 とガンチャンより年上の方が呼び止めようとしました。雀荘のあるビルを飛び出して路上を見渡しても、白い月の下には暗いアスファルト道路が所々、光っているだけでした。

 「ガンチャンのガンは頑固のガンだ」

 年配の鉄工所の社長がボソとつぶやきました。
その後も何度か卓を囲みましたが、初手に負けるとなかなか帰ろうとはしませんでした。気の短いガンちゃんのマージャンは慣れてくるとたいした打ち手ではないことがわかってきました。

 「ガンチャン、もうそろそろ止めませんか、豆腐作らなくても良いのですか」

 と小生がからかい、

 「やかましい。早くシャイツ(さいころ)を振れ」

 とガンチャンが応える場面も何度かあるようになりました。
結果、小生が麻雀に誘われることは無くなりました。うまい打ち手、強い打ち手で無くとも勝つ道があるのです。本人は一言も言いませんがガンチャンの麻雀必勝法は以下のごとき物だったと思われます。

「勝っている時点で止める」
「勝てそうな相手としか対戦しない。どんな人気者であろうと、有名人であろうと、
強いと評判の相手とは対局しない」
「弱い相手探しに全力を注ぐ」
「勝てそうな相手が現れるまで、じっと雀荘で待つこともある」

 次の言葉を漏らしたことを鮮明に記憶しています。金持ちのヘタッピーの弁護士(あだ名が救済保険でした。)と卓を囲んだ時のことです。ガンちゃんがしつこく誘ったのですが、

 「金にはなるが、麻雀にはならんなこりゃ」

 救済保険さんの支離滅裂な牌の切り出しを眺めていった言葉です。これはガンちゃんの株式投資法と血脈が一致します。

「利食いを常に行う」
「人気株、花形株、高額な株には見向きしない」
「低位株に着目し、探す」
「独自の物差しで株式を選ぶ(減っていく商品を商っている会社を探せ)ハイテク産業には
見向きもしない」

 このあたりはウオーレン・バフエットの投資法と通ずるものがあります。

 「投資信託は一切買わない」
「麻雀するなら自分でやるのが楽しいんだ。人に手数料払って麻雀やってもらって損するときは大きく、儲かる時はちょっぴりなんざ、迷っている奴のすることだ」

 大事なことは、「これは」という株が無い時は、見(けん)を決めこんで、一切株式を持たないことです。

 「風車、風の出るまで昼寝かな」

 と嘯いて(うそぶいて)、テレビでもNHKの舞台中継しか見なくなります。
『時間だけは平等だ』というのはこのことです。

 機関投資家に個人投資家は勝てません。資金量でも、情報量でも、設備でも全て全て、なにしろ彼らは売買手数料も無いのですから。一日なん百回売り買いしても無料なのです。たったひとつのアドバンテージ(有利さ)を除いては。個人投資家は時間で勝てるだけです。

 機関投資家は毎月、三ヶ月後と、半年後と、一年ごとの運用成果を上司に査定されます。ですから、哀れなるかな、のべつ幕なし打ったり買ったり、ポジションを持ち続け無ければなりません。空中ブランコ乗りは失敗することもあるのは確実です。古人は河童の川流れと称しました。

 売買手数料が要らない不動産屋が、土地を売ったり買ったりしていって所有不動産を増やしていき(ポジションを増やしていき)、最後は民事再生法の御世話になっているのが昨今です。一方、個人投資家はいったん買った土地をなかなか売らずにいて、十年以上持ち続け頼み込まれて売った後は、「新規の土地は高額過ぎて手が出ない」として買わなかった人が結局は儲けを残しているようです。(続く)