1986年3月開館のこの美術館は訪れるものにとって楽しい空間がたくさん用意されています。砧公園(きぬたこうえん)内にあるこの建物は写真がとりにくい建築であります。いわゆる正面のない建築です。分割された空間を回廊で繋ぎ、各回廊から緑の植物、芝生、青空、公園風景を楽しめるように設計されています。内井昭蔵氏の設計によるこの建築は「公園美術館」というコンセプトのもとに進められました。
内井氏の設計用のスケッチを拝見すると、すべての建物は、公園の樹木より高さが抑えられるようになっています。なだらかなアーチを描く屋根は草色の銅版で葺かれています。アンリ・ルソーをはじめとする素朴派の外国作品と世田谷区ゆかりの高山辰雄、向井潤吉らの作品を収集展示しています。レストラン・コーヒーショップともにインテリアにも高級感があって好評であります。 席を取るのが大変です。
ぶらり訪れて美術品を楽しんだり、公園の四季の移り変わりを楽しんだり、軽くお茶を飲んだり、本格的なイタリア料理を楽しんだり、区民にとって素晴らしい美術館です。聞くところによりますと、この美術館建設の話が持ち上がったとき、区民が建設委員会に参加して熱心に討議し、建築家の諸先生達からヒヤリング等の後、設計者を選定したそうです。
しかも実施設計が完成するまで区民の意思が反映されるよう、打ち合わせが行われたのです。区民のレベルも高く、区民の中から選ばれた委員も、美術大学を修了した主婦やデザイナーの皆様がつとめられたそうです。世田谷区という日本屈指のエルリコな区民、区だから誕生した建築でしょうか。