従業員の「お母ちゃん」 − 加治支津子さん


【「津軽三味線に打ち込みたい」と話す加治さん=桑名市大福の三重物産で】

 「結婚と同時に商売を始めて45年。仕事と経理を分担して、夫と2人3脚でやってきました」と、創業時を懐かしむ。
 ステンレス加工会社で営業に携わっていた夫勝巳さん(70)が26歳で脱サラ。退職金を資本に同市京町の小さな貸事務所でステンレス流し台の販売を始めた。元上司の力添えもあり、勝巳さんは飛び込みセールスで次々と販売店に食い込んでいった。
 翌年には個人経営から会社組織に移行。販売実績を積み上げて6年後には、同市大福に土地を購入して社屋と倉庫、家族4人の住宅を建てた。各メーカーと代理店契約を結び、システムキッチンやユニットバス、トイレ、ガス給湯器など取扱い商品の幅を広げた。水道部門を新設して水回り全般の配管工事も請け負うようになった。
 12人の社員に、より快適な職場をと、平成8年に2階建ての社屋に改築。社員や下請け職人らのわずかな体調の変化を見逃さず、置き薬や病院を勧める心遣いに、みんなから「お母ちゃん」と呼ばれ慕われている。「従業員あってこその会社。全員がわが子です」と、笑顔で話す。
 一昨年、「元気なうちに譲りたい」―と勝巳さんは、長男圭一さん(44)に社長を譲り、次男多加志さん(41)を専務に昇格させた。両親の背中を見て育った息子たちに、会社の将来を託した。
 夫が「妻のおかげで思う存分仕事ができ、良い状態で息子にバトンタッチできた」と話していたと、知人から伝え聞いた。面と向かって言わないところが夫らしいと喜びが込み上げた。「今は長男のお嫁さんに、これまで培ってきた経理、事務全般を引き継ぎ中。今後は少しのんびりと、半年前から教わり始めた津軽三味線に打ち込みたい」と目を輝かせた。

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