28戦無敗のチームに勝利できた理由

 9月17日に行われた東海社会人リーグ1部第13節でFC伊勢志摩は、FC刈谷に勝利(前半2―1、後半0―0)した。FC刈谷は、2015年シーズンの途中から3シーズンに渡りリーグ戦28戦無敗を続けており、2016年東海社会人1部リーグを無敗(13勝1分)で優勝。東海地域で最も知名度・実績のある社会人チームである。

 FC刈谷は今シーズンも我々FC伊勢志摩と対戦する第13節まで無敗(9勝3分)を守っていた。FC刈谷と1部昇格2年目となる我々の対戦成績は、昨年からの3戦でFC刈谷の3勝(2016年は1―2、0―1、2017年は1―4)だった。なぜ我々は3シーズンに渡りリーグ戦28戦無敗を続けていたチームに勝てたのか。

 まず、①プライドを捨て勝つための戦略を徹底できたことが挙げられる。サッカーに関わるほとんどの選手・監督は負けず嫌いだ。そして、可能ならボールを保持して相手ゴールへ攻め続けたいと強く願っている。反対に、自ゴール前に張り付いて必死に守りを固めることは好まない。私が監督を務めていた昨年までの4年間は攻撃的なサッカーモデルを趣向していた。しかし、金守監督体制となった今期は、勝つために守備の強化を徹底してきた。そして、FC刈谷戦ではさらに守備を強調した戦略を計画し、必要な戦術を実行できるようトレーニングで強化したことが奏功した。

 次に、②心理的に置かれた状況の違いが我々に有利に作用したといえる。この試合で絶対に勝つ必要があったのは我々ではなかった。我々は残念ながらリーグ戦優勝の可能性はないものの、JFL昇格の可能性のある全国社会人選手権大会(全社)出場の権利を得ていたという状況だったので、全社に向けた戦い方の確認も含めこの試合に挑んでいた。しかし、FC刈谷は愛知県大会で負けているため全社の出場権を得ていない。FC刈谷がJFLへの昇格を果たすためにはリーグ戦での優勝が絶対条件であり、そのためには我々との試合を含む残り2試合に勝利する必要があった。絶対に勝たないといけない状況の刈谷のプレーヤーが人数・手数をかけて攻撃に来るのに対し、我々は少数で手数をかけずにカウンターを仕掛ける狙いが上手く結果につながった。

 最後に、③相手の長所を消し短所へ誘導できたことを挙げておきたい。金守監督は事前の分析でFC刈谷の攻撃の起点は右サイドにあることを見抜いていた。前半はその右サイドから崩され失点を喫した。ハーフタイムに後半に向けた対策として、右サイドにボールを運ばせない守備戦術を確認・指示した。さらに、ビルドアップがあまり得意ではない左サイドの選手にボールが渡るようにピッチサイドから選手に指示を出し続けた。その結果、FC刈谷のシュート数は前半8本で1得点、後半6本であったのに対し、FC伊勢志摩のシュート数は前半5本で2得点、後半はなんと0本であった。リードされている状況で絶対に得点が必要なFC刈谷の攻撃を前半よりも後半抑えることに成功したといえる。

 この勝利が今後、チームへもたらす影響は様々あると考えている。その中でも特に、金守監督が取り組んできた方向性が一定の結果を出せたことでより明確となり、我々の守備戦術に対してチームの全員が自信を深められたことは間違いなくプラス要因である。

 10月14日から福井県で行われる全社に向けて我々がしなければならないこと。それは、自信を深めた守備戦術をこれまで以上に謙虚な姿勢で練習に打ち込み、苦しい時こそ連携・連動・連続して実行することである。このことを全員が理解して協調できれば、我々が目指す目標へと到達出来ると信じている。

中田一三
中田一三

なかたいちぞう 1973年4月生まれ。伊賀市出身。四日市中央工業高時代に、全国高校サッカー選手権大会に3年連続出場。92年1月の大会では同校初優勝をもたらし、優秀選手に選ばれた。中西永輔、小倉隆史両氏と並び「四中工の三羽烏」と称された。プロサッカー選手として通算194試合に出場。現在三重県国体成年男子サッカー監督。