競争の活性化が強い三重を作る

昨年、ヴィアティン三重が三重県サッカー成年男子待望の全国社会人サッカーリーグ(JFL)に昇格した。この昇格は三重県サッカー界にとって非常に価値のあることだ。クラブ関係者・選手・スタッフ・支援者の念願かなった様子は、三重県内に明るいニュースとして広く伝えられた。チャレンジする前からやれない理由を並べる人が少なくない中、難しいチャレンジも実現可能であることを示し、4年後の第76回国民体育大会(三重とこわか国体)に向け気運がさらに高まることが期待できる。

国体三重県サッカー成年チームが毎年本国体で上位進出するためには、三重県サッカー界全体がレベルアップする必要がある。そのためには、三重県内の全てのカテゴリーで競争が活性化している必要がある。人数の大小の問題ではなく、競争の質と強度が重要だと私は考える。

例えば、東海地方においてサッカーで有名な県といえば静岡県(人口約367万人)であるが、国体静岡サッカー少年チームは、10年以上連続で本国体に出場し上位進出している。それに対して、国体三重県サッカー少年チームは10年間で東海予選を突破し本国体に出場したのは1回のみである。静岡県内には、J1のジュビロ磐田(磐田市人口約17万人)・清水エスパルス(清水市人口約24万人)をはじめとして、プロからアマまでたくさんの強豪クラブが存在し、さらに学校のクラブ活動レベルでも小学校年代から高校生年代にいたるまで常に全国で優秀な成績を出し続けている。

さらに海外に目を向ければ、世界有数のサッカー先進国スペイン(総人口4、650万人)には、世界1、2を争うチームが複数存在する。そのような環境下において、スペインサッカー界のレベルの高さを象徴しているのが、乾貴士選手が所属するSDエイバルというチームである。エイバルは人口3万人にも満たない都市にも関わらず、大都市にあるレアル・マドリードやFCバルセロナとしのぎを削って観客を魅了している。この事実は、世界トップクラスのチームや選手を生み出す熾烈(しれつ)な競争が3万人にも満たない人口の中に存在していることを表している。つまり、高い質と強度が伴った競争がこの小都市には日常に存在するのだ。

三重県サッカー界についてみると、ヴィアティン三重がJFLに昇格したことは三重県にとって素晴らしいことである。しかし、1チームのみが強く発展する状況では全体のレベルアップは望めない。そこには、高い質と強度が伴った競争が日常的に発生しないからである。身近な個人と地域が互いに負けまいと切磋琢磨(せっさたくま)を日常的に繰り返し、初めて県内全体が活性化する。このプロセスが選手を強くしチームを強く育てるのだ。

今後、三重県のチームが国体で全国トップレベルに挑み常に上位進出するためには、三重県サッカー界全体のレベルアップが必要であり、競争の活性化が不可欠だ。高い質と強度が伴った競争が日常的になっていない三重県のサッカーは、まだまだ発展する余地が大いにあるといえる。

中田一三
中田一三

なかたいちぞう 1973年4月生まれ。伊賀市出身。四日市中央工業高時代に、全国高校サッカー選手権大会に3年連続出場。92年1月の大会では同校初優勝をもたらし、優秀選手に選ばれた。中西永輔、小倉隆史両氏と並び「四中工の三羽烏」と称された。プロサッカー選手として通算194試合に出場。現在三重県国体成年男子サッカー監督。