▼長期間の暗雲の切れ間からちらりと顔をのぞかせただけで“日中友好の使徒”は再び厚い雲間に姿を消す気配。東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出に対する中国の反発が直接のきっかけだが、日本の水産物を全面禁輸にし、首相親書を携えて訪中するはずだった公明党代表の予定も白紙に戻した
▼相手は中国である。かくすればかくなるものと知りながら―外交的にはお粗末極まるのではないか。岸田文雄首相は全面禁輸に対し、週末までに水産事業者への支援策をまとめるとし「断固守る」。放出決定前は「継続的に寄り添っていく」と言っていた。支援策がその具体化だとすれば、あまりに遅い
▼「寄り添う」というのは新たな政治家言葉か。代表的な「遺憾」が、謝っているとも、不快に思っているとも知れぬ。寄り添うは、寄り添う側と寄り添われる側の思いが違い過ぎることが多いからだ。漁業者が放出絶対反対と言っているのに、地元の了解を得ずに放出することはないと言っていた政府側が、科学的お墨付きを得たとか、風評被害などの補償をすると言って放出に踏み切るたぐいだ
▼はた目には傍若無人な手法だが、自分らは「寄り添ってきた」と思って、中国にも適用したか。IAEA(国際原子力機構)から支持を得たことや、中国の原発の方がより多くトリチウムを海洋放出していることで、おおっぴらの反発はしにくかろうとでも思ったか
▼自分のことを棚に上げて人の欠点をあげつのったり、説明を軽んじられることほど腹の立つことはない。共存の道をどう探るかは放出だけのことではない。