第49回先進国首脳会議(広島サミット)が5月21日、三日間の日程を終えて閉幕した。今後は12月まで全国各地で関係閣僚会合の開催が予定されており、県内では6月16―18日の3日間、三重・伊勢志摩交通大臣会合の開催を控えている。開催まで残り1カ月を切り、周辺でも警備に向けた緊張が高まりつつある。(小林哲也)
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開催地となる志摩市の賢島は、平成28年5月に開催された第42回先進国首脳会議(伊勢志摩サミット)の舞台ともなった。同会議では主会場の志摩観光ホテルを中心に大規模な警備計画が策定され、全国からの応援部隊により県内だけで1万6千人、愛知と合わせると2万3千人規模の大警備体制が敷かれた。
当時は「イスラム国」に代表される爆発物や銃器、化学兵器などを使った組織的なテロ活動や、そうした組織の影響を受けた「ローンウルフ」と呼ばれる小規模集団によるテロ攻撃を想定し、交通機関や商業店舗など、不特定多数が利用する施設を狙った「ソフトターゲット」への警戒警備が主眼に置かれていた。
これに伴い、各国首脳が降り立った中部国際空港(愛知県常滑市)から三重をつなぐ高速道路や主要幹線道路では流入規制やマイカー自粛、事業用車両の調整など交通総量の抑制を実施。志摩市内でも開催前から広い範囲で交通規制を実施し、鉄道は会場直近の駅までの運行を休止、定期船は乗り場を変更してシャトルバスを手配するなど、交通や物流への影響も少なからずあった。
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これに対して、今回の交通大臣会合で警備当局は広範囲な交通規制は実施せず、「一時的な通行制限」にとどめる方針を示している。
開催期間中は賢島大橋から主会場を結ぶ一部区間の通行は制限されるが、近鉄志摩神明駅以南の周辺道路については所持品検査や身分証の確認を伴う検問警戒や迂回措置にとどめ、基本的には地元住民への影響は最小限となる見通しだ。鉄道やバス、定期船についても部分運休や乗り場の変更などはせず、ほぼ通常通りの運行となるとみられる。
4月には県主催で地元住民向け説明会も開催されたが、現時点で大きな混乱などは生じていないという。
七年前はサミット対策課長として警備の陣頭指揮を執った県警の西久保陽警備部長は、「情勢は国際テロよりも国内テロに変わってきている」と指摘する。
奈良市で昨年7月に安倍晋三元首相が銃撃された事件に始まり、今年4月には和歌山市内で岸田文雄首相が襲撃されるなど、近隣他県で相次いで要人襲撃事件が発生。県内でも1月、岸田首相が参拝に訪れた伊勢神宮外宮周辺で爆竹が破裂するなど、警備を巡る情勢は緊迫感を増している。
こうした情勢に対応するため、県警では既に会場周辺の集客施設や交通機関での不審者や不審物の警戒、海保と連携した海上警戒やヘリコプター、ドローン(小型無人機)を活用した上空検索など、陸海空で連携した「密度の高い」警備に向けた準備を進めている。具体的な警備規模は明らかにしていないが、過去の関係閣僚会合やテロ事案に対応するための増強等を考慮すると約千―2500人体制と想定される。
一方、伊勢志摩サミットでは、各国首脳の行動に合わせて主会場の外での警備の必要性が生じる場面があった。また関係閣僚会合ではテーマに沿って会場外の施設を視察する「エクスカーション」も予定されており、一般との距離が近い場所での対応も課題となる。
二つの襲撃事件に共通したのは単独の襲撃犯を意味する「ローンオフェンダー」の存在だ。組織的な背景がなく、事前の予防や対策を立てにくい特徴がある。
西久保警備部長は、「普通の身なりの人が突然何かをしてくる可能性もある。厳重な警備に守られた会場から一歩外に出て、一般との距離が近い場所では警備もより徹底する必要がある」と話していた。