▼吉田茂元首相が占領時代、GHQ(連合国最高司令官総司令部)幹部にGHQの意味を聞いた話がある。「ゼネラル・ヘッドクォー…」と説明しかける幹部に「ゴー・ホーム・クイック(早く帰れ)かと思った」
▼本場英国流のユーモアか。ニュース映画でしか見たことはないが、苦虫をかみつぶしたようなご面相の元首相が、当時絶対の権力者GHQ相手にニコリともせずに言ったかと思うと愉快だ
▼大いに気に入っているが、元首相で記憶に残るのは「バカヤロー解散」や、サンフランシスコ講和条約を巡り、意見の異なる南原繁東大総長に「曲学阿世のやから」と放った言葉だ。権力者にはユーモアで、見下した相手には暴言で対したわけでもあるまいが、評価に賛否両論あった元首相を戦後ただ一人の国葬として扱ったのは当時の佐藤栄作首相の強い意志だった
▼その佐藤氏は国民葬となった。沖縄返還でノーベル平和賞を受賞したが「えいちゃんと呼ばれたい」と言ったのは知られる。人気俳優の愛称にあやかりたいというわけで自身、人気のなさは自覚していた
▼国葬にしろ国民葬にしろ衆目一致して業績をたたえる性格のものではあるまい。政権の都合であり、日本ではまれな衝撃の死を遂げた安倍晋三元首相を国益や政権のために国葬にしようというのは、あって当然の判断といえなくはない
▼政治家の評価に信条や考え方を持ち出すのもそぐわない気がする。共同通信世論調査では反対が賛成を上回り、政権の支持率も下げている。旧統一教会との関わりとみられる。そこでどうするかも政権の問題である。