2022年4月10日(日)

▼甲府市で夫婦が殺害され自宅が全焼した事件で、甲府地検は、殺人などで19歳の男を起訴し、4月施行された改正少年法の「特定少年」として、初めて氏名を公表した。公表の理由を報道陣から問われ、同地検次長は「法にのっとり、諸般の事情を考慮し、内容を踏まえた」との説明を繰り返した

▼改正少年法は成人年齢の引き下げに伴い、18、19歳を「特定少年」と位置づけ、それまで禁止されていた氏名などの推知報道の適用外とした。地検が「法にのっとり」というのはそのことだが「諸般の事情」は、扱いが一律ではないことを物語っている。「事情」は言わないということだろう。言えないということでもあるかもしれない

▼甲府市の事件は、高校の後輩である被害者の長女への逆恨みから両親をナイフで刺殺。妹をなたで殴るなどしてけがを負わせ、自宅を全焼させたという。家裁は検察送致を決めた。法改正で実名公表に賛否がある中、最高検からは公表の検討を求められている検察にとって、申し分のない案件といえよう

▼実名報道することで社会が事件を身近に考えることに貢献することを責務としている報道機関も、多くが公表のまま実名報道をした。ひとまず足並みがそろえられる事件だった。一番難しい最初のハードルを越えた形だが、だからといってこれからも安易に流れてはなるまい

▼個人情報保護法施行後、行政は匿名化を加速化させた。コロナ禍での時短要請など公表を懲罰手段として用いる傾向もある。これを機に、行政も一律匿名の思考停止は改め、個別に考える一助とされたい。