〈まる見えリポート〉パワハラのほかにも疑惑 伊勢市の住宅型有料老人ホーム、部屋の外に鍵

【「老人アパート」内部の様子、部屋の出入り口外側には鍵が見える(関係者提供)】

本紙が先月、従業員男性に対する暴言や暴行などのパワハラ行為の疑惑を報じた三重県伊勢市の住宅型有料老人ホーム施設。取材を進めるうちに、別の疑惑も新たに明らかになった。

紙面では、男性が勤務していた約2年間にわたり、代表取締役男性から人格を否定するような暴言や、エアガンを使った暴行などパワハラ行為を受けていた疑いがあることを報じた。

「もっとひどい話がある―」。記事の掲載後、過去に施設の運営会社で勤務していたという元従業員の女性が連絡をくれた。女性によると、老人ホーム施設を運営する会社が一部利用者を、行政への届け出をしていない別の建物へと居住させていたのだという。

利用者が居住していた部屋は、ベッド一つ置いたらほとんど身動きできなくなるような広さで一部の部屋には窓がなく、窓がある部屋も開閉はできない状態だったという。また一部の部屋には外側からしか開けることのできない鍵がついており、利用者に対する食事や着替えなど満足な世話もしないまま放置している状態が続いていたという。

県や市によると、施設を運営する会社は、法改正によって指定権者が市へと移る前の平成25年11月、伊勢市小俣町本町でデイサービスを中心とする通所介護施設として県から指定を受けた。その後、28年4月に訪問介護の指定を受け、同じ年の8月、朝熊町に新設した住宅型有料老人ホーム施設について県からの認可を受けている。

一般的に、通所介護は利用者を自宅などから施設に送迎し、日帰りで食事や入浴、レクリエーションといった介護サービスを提供する。また訪問介護はヘルパーや介護福祉士を利用者の自宅などに派遣し、日常生活の援助などを行う。

女性など複数の関係者によると、同社は過去に「老人アパート」と称して代表取締役男性の自宅を改装した部屋に、数人の高齢者を無届けで居住させていたという。その後、非常口が設置されていないなど消防法上の問題を指摘されたことを受けて、朝熊町に老人ホーム施設を開設した。

現在、同社は主に朝熊町の施設に居住する利用者を小俣町の施設に送迎する形でサービスを提供している。しかし朝熊町の施設ができた後も、一部の利用者を「老人アパート」に住まわせていたという。

過去に「老人アパート」を利用していたという50代の女性に話を聞くことができた。女性は別の利用者が暴行を受ける様子をたびたび目撃したほか、自分自身も濡れたタオルで体をたたかれたり、裸のまま1時間ほど放置されたりしたことがあったとしている。

女性は身の危険を感じ、ケアマネジャーに相談することで別の施設に移ることができたといい、「怖くて毎日死ぬかと思った。他に身寄りのない人は我慢するしかない」と話す。

同社で副社長を務めるという取締役男性は取材に対し、元従業員男性の問題行動に対して注意したことはあったことは認めたが、パワハラ行為については「事実無根」と否定した。また「老人アパート」については過去に使用していた事実は認めたが、「現在は倉庫としか使っていない」と主張。鍵付きの部屋の存在についても「そういった事実はない」と否定している。

後日、代表取締役の男性に対しても取材の約束を取り付けたが、約束の前日になって突然「取材を拒否したい」と連絡があった。理由を尋ねたが、納得のいく返答は得られなかった。

県や市では、介護保険法や老人福祉法の観点から連携して調査を進めているという。各担当者は「事実であれば問題。基準に沿って厳正に対処したい」と話している。