▼マンガは悪書とされた時代に育ったマンガファンとして、マンガはもっぱら立ち読みか、喫茶店などに置かれたのを読むのが中心。筋の記憶もあいまいで、何のオーソリティーもありはしないが、立ち読みしながら涙を流したのは白土三平著『忍者武芸帳 影丸伝』だけだった
▼影丸の妹・明美が敵の忍者に囲まれ、脱出口を探り、決行。成功したが、流産した血の臭いをかぎつけられ、惨殺される。転がった顔半分の目に涙が一筋―。もう一つの代表作『カムイ伝』はマニアなどに評価の高い『ガロ』連載で、天変地異や時代の流れの中での人間の営みを描き「唯物史観漫画」と呼ばれた。近づきがたく、断片的に見たのは『ビッグコミック』連載からか
▼それから十数年後―。映画『男はつらいよ』シリーズが話題になった時、庶民の暮らしを描く中で「被差別部落は取り上げられていない」と部落解放同盟幹部が言った。『カムイ伝』の主人公の一人が下人の身分で、非人と呼ばれた部落民と結婚し、仲間から爪はじきにされたり、協力して難工事を成し遂げる場面が脳裏によみがえった
▼のち人権団体などで、江戸時代の出来事が現実に存在することを知る。昭和40年の同和対策審議会答申から平成14年の時限立法が終了して14年後、部落差別解消推進法の必要に迫られる
▼秋篠宮家の長女、眞子さんが結婚会見で質問について「恐怖心が再燃し、心の傷がさらに広がりそう」と文書回答した。美智子上皇后が失語症となり雅子皇后は適応障害と診断され、眞子さんは複雑性PTSD
▼身分社会の過酷さを思う。