▼パラリンピック特有の障害の程度という出場資格基準が直前に軽いクラスに変更された車いす陸上の北京大会金メダリスト、伊藤智也選手は特別枠で出場したそのクラスで予選落ちした。「スタートラインに着いたときの気持ちは一緒。一生懸命走る気持ちに変わりはなかった」と話した
▼クラス分けの期限が昨年末で切れており、大会の1年延期で再検査が必要になった。結果に「ハイレベルなショック」と語った伊藤選手は「体の状態は悪くなっている。競技クラスだけが軽くなって、納得はしておりません」
▼パラリンピックの参加基準については昨年、国際パラリンピック委員会(IPC)が車いすバスケットボールの東京大会除外の可能性を示して国際車いすバスケットボール連盟(IWBF)にIPC基準の順守を求めたことで知られる。背景には、スポーツができなくなった人を広く受け入れてきた競技団体の歴史と、パラリンピックの評価を確立しようとする運営側の確執がある
▼「競技の完全性や高潔性」を順守するというIPC声明には「参加資格のない障害を持つアスリート」の言葉もある。障害者を差別、排除する難しさをはらむ。障害偽装も科学的、医学的に完全には排斥できない
▼自己免疫疾患の多発性硬化症の難病を抱える伊藤選手が北京大会から13年。改善したとはいかなる再検査でも説得力あるまい。記録は変更前のクラスなら銅メダル相当というが、練習ではもっとよかった。「気持ちが入りすぎた。この一本でパラリンピックが終わる思いが気負いになった」
▼明るく答えたという。