▼昭和7年のロス五輪で、200メートル平泳ぎ銀の前畑秀子に祝賀会の席上、永田秀次郎東京市長から「なぜ君は金を獲らなかったのか。0・1秒差ではないか。無念でたまらない」と涙を流さんばかりに雪辱を求められた。3年後のベルリン五輪で金を獲った前畑は、負けたら日本へ帰れないと思った、と書いている
▼テレビ全局が五輪一色さながらで、新聞も含め、まず日本のメダル獲得数が報じられる。永田市長の声涙下る励ましは、今も形こそ違え日本に脈々と流れているのだろう。柔道以外はほとんど見ていないので何のオーソリティーも主張しないが、銅を獲得し、関係者と抱き合って涙を流して喜ぶ海外の実力者を見ると、銅で悔し涙を流す日本選手とはずいぶん違う気がする
▼国際大会で優勝した吉田沙保里さんが日本のファンへのコメントをテレビ記者に促され「国民のみなさん」と切り出したのに吹きだした。五輪憲章の「国家間の競争ではない」という定めに最も遠いのが日本の政府であり選手であり、マスコミかもしれない
▼五輪選手への誹謗(ひぼう)中傷が会員制交流サイト「SNS」で広がり、日本オリンピック委員会(JOC)が監視チームを発足させたという。昭和59年のロス五輪女子マラソン代表の増田明美さんは「非国民」「国賊」などの言葉を路上で浴びせられた。前回の東京五輪マラソン銅の円谷幸吉は重圧で自殺した
▼バッシングは励ましと日本の場合、表と裏。世論の動向で時に激しく現れ、時に沈黙して出番を待っている。JOCの対策は遅きに失するが、ことはJOCだけの問題でない。