23日から「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会」が開かれる。このうち障害者スポーツの祭典、パラリンピックは大会を通じ、多様な人々が壁を越えて歩み寄る「共生社会」の実現促進を目標の一つに掲げる。三重県内でもスポーツを通じた障害者と健常者の共生を目指す動きがある。スポーツチームや競技会で拡がる、両者の垣根を越える取り組みを追った。
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名張市を拠点にバスケットボールの地域リーグ、東海・北信越リーグに参戦している社会人チーム「ランポーレ三重」はこの春、デフ(聴覚障害)バスケットボール日本代表の長田拓巳選手を迎えた。
今春上武大を卒業した栃木県出身の23歳。172センチの小柄だが体幹の強さを生かした突破力が武器で、日本代表の一員として大学2年時に出場したデフバスケットボールのU21世界選手権で銀メダルを獲得。大会出場選手のベスト5に選ばれた。
ランポーレ三重加入後も持ち味を生かして5月から6月にかけて名張市などで行われた県総合選手権決勝進出に貢献した。元プロ選手の北森郁哉選手が「ばねがすごい。全然通用する」と話すなどチームメートも一目置いている。
同チームの上田頼飛ヘッドコーチ兼GMがデフバスケットボール男子日本代表監督を務めている縁もあり入団が実現した。上田GMによると、日本が招致を目指す、聴覚障害者のための総合スポーツ競技大会「デフリンピック」2025年大会に向けた強化の機運があるという。
3年前に地元出身の北森選手らが発足させたランポーレ三重はプロリーグのBリーグ参入を目標に掲げる一方、育成球団としての側面を持つ。今月には2020シーズン、チームの司令塔を務めた岡本将大選手をB3リーグの埼玉に送り出した。
上田GMは「チャンピオンになることと個人の目標が達成できるチームを目指したい。選手たちが輝ける場所にしたい」と話し、健常者、障害者両方が切磋琢磨しながらのレベル向上を夢見る。
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三重陸上競技協会は7月に伊勢市で開催した県選手権大会でパラアスリート2選手を受け入れた。ともに下肢切断者で、女子走り幅跳びに大阪府在住で亀山市出身の保田明日美選手、男子走り幅跳びに四日市市に本社を置く住友電装所属の稲垣克明選手がエントリー。稲垣選手はスポーツ用の義足板バネの不調で出場を見送ったが、保田選手は予選3回で2メートル90の記録を残した。
T63クラス(=大腿(だいたい)切断など)女子200メートルの日本記録を持つ保田選手はパラリンピック出場を目指して実家でのリモートワークのかたわら週6日の練習に励んでいる。健常者向けの大会で出した記録はパラでは公認されないが「調整練習にも役立つ。今回は自分1人での参加で緊張したが、機会があればまた出てみたい」と話した。
三重陸協もパラアスリートの受け入れは初めて。橋渡し役をしたのは県内の社会人チーム「ろけっと団」代表の佐野滉亮さんだ。スポーツトレーナーの本業のほかパラアスリートの支援活動にも取り組む。コロナ禍でパラの大会の中止が相次ぐパラアスリートに実戦の場を提供したいと相談を持ちかけ、ルールに大きな違いがない走り幅跳び種目での出場が実現した。
ろけっと団では、日本選手権の出場資格を持つトップアスリートが所属する一方で、稲垣選手らのような義足の選手や視覚障害を持つパラアスリートも所属し、一緒に練習も行う。健常者、障害者が共に参加する競技会開催も目指す佐野さんは「(健常者の)セカンドキャリアを考えるきっかけにもなる。パラに巻き込み、障害者スポーツに貢献出来るアスリートを育てたい」と話している。