強い毒性を持つ特定外来生物「ヒアリ」の発見が全国で相次いでいる。兵庫県尼崎市で5月26日に発見されたのを皮切りに7月28日現在、発見例は全国十カ所に上り、東海地区でも愛知県弥富市と春日井市内で上陸が確認された。県内での発見はまだないが、外来生物の脅威はヒアリだけとは限らない。県内への侵入に備える意味でも、外来生物に対する正しい知識を身につける必要がある。
(県警・小林 哲也)
ヒアリは南米原産の体長約2―6ミリで赤褐色をした小型のアリ。オーストラリアや中国、北米などに分布し、環境省によって特に人の生命・身体や生態系に害を及ぼす特定外来生物に指定されている。攻撃性が高くアリ塚を拠点に群れを作るのが特徴で、尻の毒針に刺されると激しい痛みを伴い、人によっては呼吸困難や意識障害などを起こす恐れがあるとされている。
これまでの発見例では、多くが中国から船で運ばれてきたコンテナを通じて上陸したとみられている。
三重県内で海外からの貨物を扱う四日市港では6月30日、港湾外周などに118個の捕獲罠を仕掛けて調査を実施。回収した853匹のアリの中で、要検査とされる一部を環境省中部地方環境事務所に持ち込み調査した結果、ヒアリを含む特定外来種は確認されなかったとして、7月4日に調査結果を公表した。
国交省はヒアリの繁殖を防ぐため、同港を含む全国68港湾で、コンテナヤードやアスファルトの割れ目などをふさぐ緊急工事の実施を発表。また環境省でも殺虫剤や捕獲罠の設置を各港湾に通達した。
同港を管理する四日市港管理組合によると、直接中国から届く貨物や、既にヒアリが確認されている大阪や神戸を経由して貨物が持ち込まれることも少なくなく、今後も県内に侵入する可能性は少なくないという。同組合の中澤和哉総務課長は「まだ安全宣言できる状態ではない。十分な水際対策をしていく必要がある」として、継続的に調査していく考えを示した。
四日市市をはじめ県内にも四店舗を展開するホームセンターチェーン「カインズ」(本社・埼玉県本庄市)では、殺虫剤などヒアリ対策の特設売り場を設置。広報担当者によると、明和店など昨年比四倍を売り上げる店舗もあり、関心の高さに驚いているという。
県みどり共生推進課によると24日現在、自宅や庭先でヒアリを疑う問い合わせが15件あったが調査の結果、全て在来種と確認された。腹部にある二つの突起など特徴はあるがよく似た在来種も多く、見分けるのは困難だ。同課野生生物班の山下明久副参事は「ヒアリ以外の在来種まで駆除するとかえって生態系に影響する。過剰に反応せず正しい情報を持って冷静に対応してほしい」と話す。
■ ■
注意すべき外来生物はヒアリだけではない。約十年前に国内では松阪市で初めて発見された外来種「フェモラータオオモモブトハムシ」もその一つだ。東南アジア原産で体長約1・5―2センチのこの甲虫は、赤を基調とした光沢のある美しい体色とは裏腹に、マメ科の植物への食害が海外で問題となっている。現在県内で繁殖が確認されている被害は葛(くず)など一部だけだが、今後農作物への被害に発展する可能性もあるという。
「クビアカツヤカミキリ」は中国などが原産の体長約2―5センチの甲虫で、光沢のある黒い体と赤い胸部を特徴に持つ。幼虫が桃や梅の樹木などに入り込み、食害によって樹木を弱らせて枯らすなどの被害があり、徳島県では農家が廃業に追い込まれる事態に発展している。桜も食害の対象で、花見などのイベントに大きな打撃を与えかねない。
クビアカツヤカミキリは卵や幼虫の入った梱包(こんぽう)用の木材などから侵入したとされており、東海地区では既に愛知県内で確認されている。県内ではまだ発見例はないが、県総合博物館で学芸員を務める大島康宏さん(40)は「近く特定外来生物に指定される可能性がある。水際で防ぎ、侵入した場合は初期段階で防除する必要がある」と危惧する。
近年は「アライグマ」の被害報告も増えてきている。ペットに持ち込まれてから野生化したとみられ、県内では平成五年ごろから目撃されるようになった。
県獣害対策課によると、20年度からスイカやブドウなどの食害に対する報告が寄せられるようになったといい、27年度現在、桑名市など11市町で約400万円の被害があった。シカやイノシシに比べるとまだ被害額は低いが、担当者は「まだ実態調査が十分とは言えない。各市町と連携して実態を把握していく必要がある」と話した。