2021年2月25日(木)

▼5年にわたる計画、事業化の果てに―。まるでプツンとクモの糸が切れたかのような喪失感が残る伊勢市駅前再開発事業に対する鈴木健一市長の基本協定締結断念表明である。議会軽視の指摘に陳謝し、業者の条件変更になお「福祉機能の総合拠点」づくりに意欲を示してきたが、ついに気持ちの糸が切れたか。最後通告に当たる文書を送るという

▼開発業者を議会が参考人招致し、こじれた事業がようやく軌道に乗るかに見えた。市は保留床の公募を開始した矢先、賃料の起算日や解約条件を巡り、業者との基本協定締結交渉が決定的暗礁に乗り上げた。賃料発生日を内装など実質占有が始まった日とする市に対し、業者は当初予定通り4月1日からを譲らない

▼解約の違約金について「合理的な範囲内の賠償」を市は主張したが、業者は「残存賃料の全額を一括支払い」と、RDF事業から撤退しようとした松阪市に県が要求したような条件を提示した。代替賃借人を紹介した場合、条件は免除されるという。市が怒るのは当然

▼コロナ禍で高齢者住宅の入居が白紙になった。穴を市など他の入居者に肩代わりさせようとして無理が生じた。「見通しが甘いと言われれば否定はしないがコロナ発生は不可避の部分はあった」と業者は言う。「不可避の部分」を業者だけに負わせるのかという恨み節がにじむ

▼再開発ビルの完成は間近。地権者らでつくる開発主体「伊勢まちなか開発」社長が「コロナで全てが引っくり返った。毎日できあがっていくビルを見るのが辛い」。雲をかすみの市はその思いをどう受け止めるか。