2020年11月28日(土)

▼カミュの小説『ペスト』は、ロックダウンされたオラン市から潮が引くようにペストが終息して歓喜に沸く市民の中で、治療に奮戦した医師リューが静かにこう思いを巡らす

▼ペストは死にも消滅もしない。家具や下着や穴蔵の中で数十年待ち続け、ある朝、再び人間に不幸と教訓をもたらすため、幸福な町を襲うだろう―と。「不条理の哲学」を打ち出し、それと永遠に戦う人間の姿をモチーフにしたカミュは、それを表す題材としてペストを選択したのであり、ペスト菌の究明を目的としたわけではない

▼「潮を引くように終息」「数十年もの間、物陰で待ち続け、ある日再び襲ってくる」などは不条理の実相として語られているが、人々の感染症に対する一般的認識に基づいていると言えるのかもしれない。はしかやインフルエンザなど、われわれも似た認識を共有してきたのではないか

▼第一波と言い、第二波、第三波という。果たして明確な間断期があったか。「潮を引くように終息」「ある日突然襲ってくる」の経験値がつけた区切りかもしれない。GoToキャンペーンもその認識から生まれ、コロナの波と同調し、人の動きと連動することを証明する

▼GoToトラベルの先の東京除外も、今回の大阪、札幌両市の除外も、鈴木英敬知事は「妥当な判断」と評価する。県独自のプレミア旅行券も、配布延期、県内限定など、結果的に朝令暮改となった

▼コロナ禍後の新しい生活を国や、県は提唱する。旧態依然の観光振興策を拙速に実施するのではなく、コロナ時代の新しい振興策に知恵を絞らねばなるまい。