<地球の片肺を守る>コロナパンデミック編 国際社会、結束の姿

【日本の無償支援により建設されたばかりの国立生物医学研究所で、コロナ感染に係る検査を行うコンゴ人研究者=8月撮影JICA提供)】

昨年末から延期が続いていた重要なイベントを、コンゴ民主共和国の環境大臣と日本大使出席の下で無事開催し終えてほっと一息ついた今年3月10日、同国の首都キンシャサにおいて初めてとなるコロナ感染者が確認されました。

それから10日後、政府高官の死亡も含め、徐々に感染者が広がりつつある中で、コンゴの大統領は、大規模集会の禁止、レストランやバーの営業自粛などに加えて、突如、国際空港の閉鎖に踏み切りました。また、これら一連の措置を受け、国際協力機構(JICA)も、同国で国際協力に従事していた日本人専門家の一時的な帰国を決断しました。

「オオナカさんですか? 明日のフライトは急きょキャンセルされることが決定しました。」翌日の出発に向けて荷作りを始めた矢先、予約していた航空会社から突然の電話を受け、私はぼうぜんと立ち尽くしました。

結局、キンシャサ発の最後の商業便に乗り損ねた私たち家族は、現地の日本大使館やJICA事務所のサポートを受け、米国政府が手配したチャーター機に席を得て、ワシントン経由で地球を半周し、何とか日本に帰国することができました。

どうやら感染していなかったようだ…そんな安どに似た気持ちを抱くようになったのは、2週間の自宅隔離を経て、1カ月ほど経ったゴールデンウィーク明けのこと。コロナ禍で急速に普及したインターネット会議でコンゴ環境省の同僚と連絡を取り合う中、やはり一番の心配事と言えば、支援活動半ばで引き揚げてきた支援国での感染拡大でした。

報道によると、アフリカでは感染者数は100万人、死者は2万5000人を超えました。そんな中、コンゴ民主共和国でも感染者数の累計が9000人を超え、未だ感染の拡大が続いています(8月16日現在)。

こうした中、日本ではあまり報道されませんが、国連機関と共に、世界で最も深刻な被害が発生しているはずの欧米諸国などが、アフリカにおいて精力的に新型コロナを含む感染症対策に取り組んでいるとの情報がコンゴ民主共和国のJICA事務所から届きました。

米国は大使自らが手洗いを訴えるインターネット動画で人気を集め、先頭に立って感染予防の活動に取り組んでいます。また、EU諸国は外相がそろってキンシャサを訪問し、航空機3機で運び込んだ何十万トンにも上る人道支援物資を供与しました。米国やEUは、こうした現地レベルの活動に加えて、なんと数十億円規模の資金援助まで表明したとのこと。中国も10名を超える医療団を派遣し、現地の医療チームと協力しながら治療などに当たっています。

そんな中、日本も今回のパンデミックが発生する以前から、コンゴにおいて重点的に保健分野の支援を行ってきました。当地で度々流行しているエボラ出血熱やコレラなどの感染症を調査・研究するための国家機関である生物医学研究所における新施設の建設は、その支援の中核でした。幸運にも、同施設はコロナが流行する1カ月ほど前に竣工(しゅんこう)できました。このため、早速、感染症対策を検討する国家委員会を開催したり、国内のコロナ感染の9割以上を検査したりするなどフル活用されています。さらに、同施設を拠点に、検査診断、感染予防や現場チームの能力強化などのための技術協力を、複数の日本人専門家が「顔の見える」援助として実施しています(現在、同専門家はインターネット会議などを通じて遠隔で支援)。

今回の新型コロナウイルスを含む感染症は、私がアフリカで支援活動を行う気候変動と同じ、全世界が一丸となって解決しなければいけない「地球規模課題」。人や物がボーダレスに行き交うことで日々の生活が成り立っている現代社会において、中南米やアフリカでの流行拡大を、「対岸の火事」として眺める国は、この世界には存在しません。世界の貧困国を舞台に展開されている国際社会の結束の姿を、私は読者の方々にぜひ知っていただきたい、そう思って今回筆を取ることに決めました。

【略歴】大仲幸作(おおなか・こうさく) 昭和49年生まれ、伊勢市で育ち、三重高出身。平成11年農林水産省林野庁入庁。北海道森林管理局、在ケニア大使館、マラウイ共和国環境・天然資源省、林野庁海外林業協力室などを経て、平成30年10月から森林・気候変動対策の政策アドバイザーとしてコンゴ民主共和国環境省に勤務。アフリカ勤務は3カ国8年目。