<まる見えリポート>コロナ禍の伊勢市駅前再開発 業者との交渉、暗礁に

【建設が進む伊勢市駅前B地区再開発事業の複合ビル=伊勢市宮後一丁目で】

 民間主導の複合ビル開発による三重県の伊勢市駅前B地区市街地再開発事業で、保健福祉拠点の整備を巡る市当局と開発業者との交渉が暗礁に乗り上げている。議会との連携不足でスケジュールが遅れていたことに加えて、新型コロナウイルスの余波により事業の収支見通しは大幅に悪化。着々とビルの建設工事が進む中、未だ着地点が見えない状況が続いている。

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 同事業は伊勢市宮後一丁目の旧三交百貨店跡地で地権者が構成する伊勢まちなか開発(同市河崎一丁目)を事業主体に、12階建ての複合ビルを建設。国や市の補助を受ける形で1階を医療や商業テナント、2―4階を立体駐車場、9、10階をサービス付き高齢者住宅、11、12階を賃貸住宅として、令和3年4月の供用開始を予定していた。

 市はこのうち5―7階約3500平方メートルを賃貸し、保健福祉拠点の整備を検討。現在稼働している福祉健康センター(同市八日市場町)から主要な機能を移転させ、「妊娠から子育てまで、切れ目のない支援ができる体制づくり」に向けて、昨年11月には同社との基本合意を締結させた。

 事業経緯の説明を巡る議会の反発でスケジュールに遅れが発生する中、基本合意の締結でようやく基本協定締結に向けた道筋ができたかに見えたが、入居条件を巡る交渉は難航した。

 同社から6月に提示された条件として、市が議会に報告した資料には、新たに「一時金12億円」「階高変更等工事費の精算6千万円」等の項目が記載されていたことが議論を呼び、同社やコンサルタント担当の新日から代表者を参考人招致する事態に発展した。

 7月27日の市議会産業建設・教育民生委員会の連合審査会で、新日の鵜飼英昭取締役は、コロナショックで入居予定のサービス付き高齢者住宅が白紙となり、用途変更により賃料収入が大幅に減少する一方で経費が増加したと説明。融資元の金融機関から稼働率の再設定を求められ、当初の事業収支から約14億1420万円の下方修正を余儀なくされたとした。

 これに伴い、複合ビル(保留床)の買取額に開業費用を合わせた資金約30億3千万円のうち、増資による自己資金や金融機関からの融資を除いて12億円の不足が生じたと説明。当初から予定していた入居者からの一時金が見込めなくなったため、穴埋めとして市の入居建築物の工事割合から算出した建設協力金(一時金)として市に求め、返済には20年後の累乗剰余金と金融機関から新たに受ける融資を充てるとした。

 同じく参考人として出席した新日の脇田米丞会長は「見通しが甘いと言われれば否定はしない。コロナが来るとは夢にも思わず不可避の部分はあった」としながらも、「万一入ってもらえなかったら金融機関にも見放される。何とかお願いしたい」と理解を求めた。

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 そもそもなぜ駅前に福祉拠点が必要なのか。

 同市福祉総務課によると、現在ある福祉健康センターは昭和63年から稼働。老朽化や機能集中による「手狭感」に加え、「複合的な課題に対応する包括的な支援体制の構築」を各市町村に求める改正社会福祉法が来年4月から施行されることへの対応から、バスや電車など公共交通機関が集まる駅前での拠点整備の必要性を理由に挙げている。

 また費用面でも、20年間を一区切りと考えた場合、社会情勢の変化や管理運営費を踏まえて「自前で施設を建て替えるより借りる方が割安感がある」と主張。鳥堂昌洋市健康福祉部長は取材に対し、「現時点で入居以外の手段は全く検討していない」と話す。

 一方で一時金を含む条件については「容認できない」とし、「誰しもが納得できる常識的な範囲でないと話がまとまらない。聞き取りを進めて、一番いい形を見つけたい」と話した。

 ビルの建設工事を巡っては既に全体の約45%が完成。伊勢まちなか開発の齋藤元一社長は「コロナで全てが引っくり返った。毎日できあがっていくビルを見るのが辛い」と表情を曇らせ、「福祉拠点以外の使い道はない。何とか着地点を見つけたい」と話した。

 常任委員会に参加するある議員は「ボールは今市当局側にある。市の結論が出ないと我々も賛否を表明できない」と話す。開発業者の見通しの甘さは否定できないが、業者案を鵜呑みにして、次善策を講じてこなかった市当局にも責任の一端はある。このまま「負の遺産」となるか、鈴木市政にとってもまさに正念場と言えるのではないか。