<まる見えリポート>「行政は事実上、共犯」 桑員河川漁協組合長の不当要求事件

【桑員河川漁協事務所から資料を押収する県警の捜査員ら。漁協と行政の不適切な関係が事件の背景にあるとみて経緯を調べている=東員町中上で(23日撮影)】

桑員河川漁協の川﨑幸治組合長(61)が恐喝未遂などの疑いで逮捕された不当要求事件で、三重県警は事件の背景に漁協と行政の不適切な関係があるとみて経緯を調べている。長年、川﨑容疑者から不当要求を受けてきた県内にある建設会社の男性社長は取材に「公共工事を受注した際、行政側から漁協へ『あいさつ』に行くよう指示された」と話し、「行けば当然金の話になる。行政は事実上、共犯」と指摘した。

捜査関係者によると、川﨑容疑者は「協力金」の名目で長年にわたり、多数の建設会社などに金の要求を繰り返していた。男性社長は「額面入りの請求書を当然のように送り付けてきた。河川とは関係ない工事でも要求はあった」と話した。

男性社長が語る恐喝行為の構図はこうだ。①建設会社などが公共工事を受注する②工事ごとの発注者である国、県、市の行政が川﨑容疑者へ「あいさつ」に行くよう受注者側に指示し、工事の同意を得るよう求める③川﨑容疑者が工事への「立ち会い金」や、自身と関係のある会社を工事の下請けとして参入させるよう受注者に要求する。

「立ち会い金」とは、工事に立ち会う組合員に支払われる金で、同社の現場には5人ほどの組合員が訪れ、1人あたり1万5千円―2万円を支払うのが慣例になっていた。支払う必要性のない金だが、男性社長は「当然のように要求されてきた。小遣いみたいなもの」と話す。

下請け参入は、正規の下請け業者との間で取り決める価格相場の1・5―2倍を要求されてきたという。男性社長は「公共工事を受注すると利益どころかマイナスになる。よくてプラマイゼロで工事実績だけが残る」と指摘。「請負と書いて『うけまけ』。それが実情」と強調する。

一方、恐喝行為が長年続いた結果「協力金」は「当たり前」になり、理由も告げずに請求書が送られてくるようになったという。同社の場合、請求額は工事受注額の0・3%が相場になっていた。恐喝行為は川﨑容疑者の父親(故人)が組合長を務めていた約40年間前からあったとされ、同社は長年にわたり、理不尽な不当要求に苦しめられてきたという。

なぜ不当要求を断れないのか。その理由について、男性社長は公共工事の評価点の付け方に問題があると指摘する。評価点は行政側が付ける仕組みで、桑名市によると、評価項目の一つに現場管理があり、クレーム対応も含まれるという。

男性社長は、このクレーム対応への評価方法が問題だと主張する。川﨑容疑者はこれまで、不当要求が受け入れられないと、発注側の行政にクレームを入れてきたという。行政は現地調査をせずに川﨑容疑者の言い分を受け入れ、受注者に川﨑容疑者と話し合うよう促すほか、時には話し合いが済むまで工事の中止を求めてきたとされる。

「話し合いとは要するに金で解決しろという意味」と男性社長。払わないことで漁協側から暴力などの被害を受けるわけではないが、「クレーム対応がまずいという理由で行政から工事の評価点を下げられる」と主張する。評価点を下げられれば、次の入札に悪影響を及ぼし、会社の損失につながるという。この仕組みが「不当要求を受け入れざるを得ない素地を作っている」と指摘する。

一方、こうした業者側の言い分について、行政は事実に反すると否定する。桑名市都市整備課の担当者は「業者側に漁協への『あいさつ』を指示するなど聞いたことがない」と強調し、評価点の付け方も「現地を見ず、クレーム側の意見だけを一方的に聞くことはありえない」と話した。

行政側の言い分について捜査関係者は「行政側の言うとおりなら、被害企業は何の理由もなく自分から恐喝をされに行っていることになる。そんなおかしな話があるはずがない」と指摘した。

男性社長は川﨑容疑者の逮捕を聞いた際「本当かな」と信じられなかったという。親の代から恐喝行為を繰り返し、逮捕されてこなかったからだ。今は津地検四日市支部が起訴してくれるよう祈っている。「これで不起訴になれば元の木阿弥(もくあみ)。もう、こんなことは終わりにしなければならない」。