三重県内の多くの学校で6日、新学期が始まる。3月末から4月初旬にかけて県内で相次いで新型コロナウイルスの感染が確認されたことから、県内の自治体で始業時期の判断が分かれた。学校で感染する可能性を懸念し、保護者が自主的に子どもを休ませようと検討する動きもみられ、学校関係者は「子どもたちが元気に登校して顔を見せてくれるかは分からない」と気をもんでいる。
年度末の3月30日、埼玉県内から鈴鹿市内を訪れていた北京五輪陸上銀メダリストの塚原直貴さん(34)と東京都在住の30代男性会社員の2人の感染が確認された。新年度に入った4月1日には、伊賀市在住の20代男性会社員も感染が確認された。
塚原さんが講師を務めた陸上教室には県内の子どもたちが参加していた。これを受け、鈴鹿市は31日、市立小中学校と幼稚園で新学期の開始を1週間延期すると発表。県教委も市内の生徒が多く通う6市町の県立学校について授業再開を延期した。
また、伊賀市も3日、市立小中学校と幼稚園の始業開始を2日延期すると決定。感染が確認された市内在住の男性との濃厚接触が疑われる市民に実施したPCR検査の結果が判明していなかったため。検査結果を踏まえ、再び延期の期間を検討する予定だ。
陸上教室に参加した県内の子どもの具体的な人数は明かされていない。検査対象になった人は陰性が確認された場合も含めて2週間の自宅待機となる。鈴鹿市や県教委が新学期を開始する予定の13日は、子どもたちが自宅待機の期間を終えたタイミングだ。
鈴鹿市防災危機管理課は始業時期の延期について「陸上教室に市内の子どもが参加していた。学校の欠席で特定される恐れがあり、人権や個人情報に配慮して決めた」と説明する。同市は参加者の半数が市内在住としながらも具体的な人数は明かしていない。
一方、津市は市立小中学校と幼稚園の児童・生徒ら9人が陸上教室に参加していたと公表。前葉泰幸市長は公表に踏み切った理由を「市民にとって必要な情報のため」と話す。同市では検査対象者の来校が判明した南が丘小以外の小中学校で6日から新学期に入る。
この津市の判断に、学校関係者は複雑な心境を明かす。ある市立小学校校長は「県立学校も始業時期を1週間延ばしている状況で、該当する児童生徒のいる学校であれば悩ましい」としつつ「アンテナを高く立てて子どもの様子や言動を注視していく」と話す。
別の小学校長は「新学期の始まりに出席できないのは自宅待機中の子どもだけではない。外国籍の子どもは一時帰国したまま帰って来れない場合がある」と指摘した上で「必ずしも自宅待機する子どもが目立って特定されることはない」との見方を示した。
残りの26市町の小中学校では予定通りの日程で新学期に入る。県教委小中学校教育課の担当者は始業時期の判断について「直前まで検討中だった市町もある」と明かす。「地域で感染状況が異なり、3月の臨時休校よりも難しい判断だった」とみている。
市町だけでなく教育現場でも判断を迫られている。PTAや授業参観、遠足などの学校行事を延期すべきかどうかは各学校で決める。「市町単位で一律に決められれば一番楽だが、地域性や子どもの特性などで事情が異なるので難しい」(津市内の学校関係者)。
新学期の開始に気をもむのは教育関係者だけではない。県教委には保護者などから「小学校低学年はマスクをしていても顔を触ってしまう」「感染が心配なので子どもを欠席させたいが、欠席扱いになるのか」と感染リスクを懸念する声が寄せられているという。定期的な換気やマスクの着用、アルコール消毒などの感染対策を講じながら、公立小中学校は子どもたちを迎え入れる。