<まる見えリポート>知事が渡航自粛呼び掛け 県民、海外旅行中止の声も 三重

【報道陣を通じ、不要不急の海外渡航を控えるよう呼び掛ける鈴木知事=三重県庁で】

小中高校の臨時休校やトイレットペーパーの買い占めなど、三重県内にも大きな影響を及ぼしている新型コロナウイルス。鈴木英敬知事は県内で2人目の感染が確認されたことを受け、不要不急の海外渡航を自粛するよう県民に呼び掛ける異例の対応に出た。臨時休校の要請を決断した安倍晋三首相と同じく、トップダウンでの方針決定。呼び掛けを受け、予定していた海外旅行を取りやめたとの声も聞かれる。一方、自粛の判断は県民に委ねられており、水際対策としての実効性には疑問符も付く。

「不要不急の海外旅行を控え、出張などで海外に渡航する場合であっても感染予防を徹底してほしい」。5日に県庁であった感染症対策本部員会議の後、鈴木知事は報道陣を通じてこう呼び掛けた。

他県でも同様の呼び掛けはなく、県独自の対応だった。鈴木知事は呼び掛け後の取材に「海外渡航をした場合は体調に不安がなくても(空港検疫所の健康相談室に)行ってほしいぐらい」とまで語った。

政府の対応よりも踏み込んだ呼び掛けと言える。外務省は国民に対し、中国や韓国といった一部地域への渡航を中止するよう要請しているが、県は国を指定せずに全ての出国を自粛するよう求めている。

決断の決め手は、これまで感染が確認された県内居住者の2人が海外渡航をしていたこと。2人目の感染が空港にある検疫所で確認されたという全国初のケースだったことも考慮したとみられる。

「まさに今回の呼び掛けは知事の政治決断だった」と、ある県幹部。「こちらからは知事に提案していない」と明かす。庁内からは「臨時休校を決断した安倍首相に触発されたか」との観測もある。

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呼び掛けは早速にも一定の影響をもたらしているようだ。県内に住む30代男性は5月の休暇を利用してフィジーに旅行する計画を立てていたが、新聞で呼び掛けを知って見送ることにした。

8日から新婚旅行でモルディブに渡航する予定だった県内在住の30代女性は2月末ごろキャンセルを決めたが、知事の呼び掛けを「周囲にキャンセルした理由を説明しやすくなった」と評価する。

一方、防疫の点では呼び掛けの効果に疑問もある。呼び掛けの対象はあくまで県民だが、ウイルスに「県境」の概念はない。感染者が出ていない国も多く、今のところ他の知事が追随する気配はない。

海外渡航を予定している県民にとっては、どこまでが「不要不急」に当たるのかという懸案もある。県は「不要不急」の基準を具体的に示しておらず、最終的には県民それぞれの判断に委ねられる。

「本当は卒業旅行などに行ってもらいたい思いもあるが、今は感染拡大の防止に重要な時期。ご理解いただきたい」と語った鈴木知事。その思いは果たして県民に伝わるか。呼び掛けの効果が注目される。