<まる見えリポート>伊勢市駅前再開発 市当局と議会が対立

【駅前再開発事業として建設が進められている複合ビル=伊勢市駅前で】

三重県伊勢市が民間開発の複合ビルを利用して保健福祉拠点整備を検討している同市駅前B地区市街地再開発事業を巡り、市当局と議会が対立姿勢を示している。6月のビル着工から半年が経過しようとする中、いまだに基本合意締結の是非を議論するという不自然な状況が続いている。

JR伊勢市駅前を巡っては、平成8年にジャスコが撤退、同13年には三交百貨店と隣接する同別店舗「ジョイシティ」も閉鎖し、跡地利用を巡っては長く議論が交わされてきた。

市は26年度に策定した再開発事業基本計画で、三交百貨店等の跡地約0・8ヘクタールを3分割して利活用を検討。このうち駅に最も近いA地区では、三重交通が28年11月にビジネスホテル「三交イン」を開業させた。C地区では「第一種市街地再開発事業」として、地権者らが設立した開発組合が共同住宅兼店舗の建設を予定している。

3区画の中心に当たるB地区(約0・3ヘクタール)では、地権者らが再開発会社「伊勢再開発ビル」(現・伊勢まちなか再開発)を設立し、共同住宅やサービス付高齢者住宅、立体駐車場などが入った複合ビルの建設計画を立案。これを受けて市は27年2月、同ビルの活用方法について庁内で募集し、子育てや、高齢者、生活困窮者などを包括支援する保健福祉拠点として利活用する方針が採択された。

市は28年6月の同市議会常任委の産業建設委員会と教育民生委員協議会で、B地区の事業計画を報告。このとき初めて12階建ての複合ビルの建設案や、市街地再開発事業としての補助制度活用、5―7階を公益施設として市が利活用する方針が示された。

市は委員協議会後、事業者に推進計画を説明。このとき市担当者からは「増床することになるが拠点を整備したい」と説明があり、事業者は当初構想していた9階建てから12階建てに計画を変更し、県知事に対する事業認可変更の手続きを進めることになった。

市は30年5月の教育民生委員協議会で、入居から55年間の試算として賃貸借の場合が約71億2500万円、保留床取得の場合で約60億円の経費が必要と説明。県知事による事業認可を経て業者がテナントを公募する同年6―8月をめどに基本合意を進める方針を示していたが、認可変更に伴いテナント公募が12月にずれ込み、その間基本合意を巡る議論も宙に浮いた状態となった。
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こうしたやり取りについて、一部議員が「議会軽視だ」「業者との密約があったのではないか」などとして反発。開発業者らを招き今年8月に開かれた全員協議会では、中山裕司議長が議員の質問や、当局側の説明を遮り会議を中断させる異例の事態となった。

鈴木健一市長や議員連名による要望書などを受けて開かれた今月8日の全員協議会では、議会への十分な経緯説明がないまま市当局が入居前提で業者と計画を先行させたとして反発の声や、財政負担や事業の意義を問う疑問の声などが上がり、鈴木市長が「不徳のいたすところ」として謝罪する場面もあった。

これに対し、市当局は「説明の機会は十分に果たしてきた」と強調。事業を所管する同市健康福祉部の鳥堂昌洋部長は「事業として確実に進める以上、議会には具体的な形で示す必要がある。政策決定の過程での内部の意思統一の話まで報告すべきとして、二元代表制の話を持ち出すのは違う」とし、「議会との同意なく市と業者間で約束することはあり得ない。市民にとって一番良い形で実現できるよう最大限の努力をしたい」と述べた。

伊勢まちなか開発の齋藤元一社長は取材に対し、「市からの提案を受けて計画を変更したのは事実だが、議会との合意が必要という説明は受けており、その場で何かを約束したわけではない」と説明。「何かを申し上げる立場ではなく、今は行政と議会が真剣に議論していただくのを見守っていくしかない」と話した。