<まる見えリポート>県「スマート改革」 進まぬペーパーレス化危惧

【公文書を処理する県庁地下のシュレッダー室=津市広明町で】

三重県がAI(人工知能)などの最新技術を業務に生かす「スマート改革」に取り組んでいる。職員の負担が大きい事務作業を中心に業務改善を図り、長時間労働の削減につなげたい考えだ。来年度の本格実施を前に、一定の成果が出始めたケースもある。一方、スマート改革を進めるに当たって前提となる「ペーパーレス化」は進まず、現状を危惧した庁内の改革検討チームが「真剣に取り組む気がないならチームは解散する」と上層部に異例の抗議を申し入れるなど、本格実施を前に波乱の展開となっている。

「スマート自治体」は、総務省の有識者会議が、2040年代の自治体のあり方に関する提言に盛り込んだことで注目された。人口減少によって職員が減少した状況でも、事務作業などを効率化させることで行政サービスを維持しようという考え方だ。

具体的には、AIに加えてRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)と呼ばれるソフトウェア型ロボットを導入し、これらの最新技術が事務作業を自動化する状況を想定。国は省庁だけでなく、都道府県や市町村に取り組みを広げる方針だ。

こうした状況を踏まえ、県も本年度、改革の実証実験に着手した。6月の補正予算でスマート改革の実証実験など、5千万円の関連経費を計上。システム関連の事業者からアドバイスを受けるなどし、各部局の業務に導入の余地がないかを探っている。

実証実験では、既に一定の成果が見てとれるケースもある。広聴広報課は月に2回のペースで開く知事の定例記者会見で、先月から議事録作成支援システムを導入した。AIが録音のデータを自動的に文字化する技術。漢字に変換する機能も備える優れものだ。

職員らは約1時間にわたる記者会見のやりとりを手入力で文字にしていたが、システムを導入して状況は一変。記者会見がある日は「ほぼ確定だった」という残業がなくなったという。職員らは「AIの精度が上がれば、もっと効率化するはず」と期待する。

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一方、スマート改革には情報共有の手段を文書からデータに切り替える「ペーパーレス化」を実施していることが前提だが、県庁では全く進んでいない。県にペーパーレス化の計画や目標などはなく、意識は低いと言わざるを得ない。

県庁は依然として「紙文化」が根強く残る。毎年、A4用紙で7500万枚に相当する約300トン前後の書類がシュレッダーなどで処理されている。「他県では常識」(県職員)という会議のタブレット端末も、外部有識者らによる経営戦略会議で使われた程度だ。

ペーパーレス化の明確な担当部署がないことも問題だ。スマート改革を担当する総務部の行財政改革推進課にペーパーレス化の取材を申し入れると「環境対策の担当だ」と回避し、環境生活部からは「それは行財政改革推進課に」と返答されてしまった。

この事態を危惧するのは若手の県職員や国から出向中のキャリア官僚らでつくる「スマート改革検討チーム」。今月、県上層部に「直ちにペーパーレス化に取り組むべき」「実効性ある改革に真剣に取り組まないなら、チームは解散する」などと抗議したという。

チームは鈴木英敬知事の強い意向で結成され、年度内にも改革の具体的な提言をまとめる。抗議を受けた上層部は、改革に本腰を入れると〝確約〟したそうだが、チームのメンバーらは「庁内では改革の意識に温度差がある」と指摘。今後の展開が注目される。