参院選が公示された7月4日、野党統一候補の芳野正英が近鉄四日市駅前で開いた出陣式。芳野の傍らに国会議員をはじめ、多くの来賓が並んだが、いつもなら肩を並べる〝重鎮〟の姿が見当たらなかった。
重鎮とは、新政みえの県議、三谷哲央(71)。この日は応援演説に立たず、候補者の後方で出陣式の進み具合を遠目に見守った。式が終わると、選挙スタッフらとともにビラ配りにいそしんだ。
言わずと知れた県議会会派「新政みえ」の司令塔。県当局への鋭い追及や強いリーダーシップは、他会派からも一目置かれる。その三谷は今回の参院選、表舞台には立たず、裏方に回ったのだ。
大阪市出身。大学時代、先輩の誘いで選挙を手伝ったことをきっかけに政治の世界へ。元自治相の故山本幸雄と元民進党代表の岡田克也の秘書を務め、平成7年の県議選桑名郡選挙区(当時)で初当選した。
当選後は県議会議長を務めた故岩名秀樹らの下で議会改革にまい進。21年の議長就任時は議会改革ブームのさなかで、議会改革先進県の議長として全国から引っ張りだこに。三谷の名は全国でも知られた。
なぜ、三谷は今回の参院選で裏方に回ったのか。15年近くにわたって務めていた新政みえの代表を、6月に退いたことが理由だという。代表を引退した背景にあるのは「世代交代」の意識だ。
世代交代の必要性を痛感させられたのは、4月の県議選。桑名市・桑名郡選挙区(定数四)で新人相手に「かつてなく厳しい戦いだった」。結果は最下位で滑り込んだが、当初は落選の可能性も取り沙汰された。
ただ、裏方でも力強さは変わらない。選挙期間はビジネスホテルに連泊し、津市の選挙事務所でスタッフと深夜まで作戦を練る。芳野の妻にお辞儀の角度まで指導した。「人がいやがる仕事ばかり」と苦笑する。
そんな三谷、かつては国政進出を打診された。国家公安委員長を務めた故中井洽から「高橋千秋の後任で参院選に出ないか」と誘われた。「かなり具体的な打診だった」(三谷)というが、一晩考えて断った。
「本当に必要とされるかが大事。自分の気持ちだけでは判断を誤る」と三谷。その半面、今回の参院選で白羽の矢が立った芳野を「私にはないものを持っている」と評価し、その成長を見守っている。