<地球の片肺を守る>REDD+解説編 熱帯林保全の新たな挑戦

【熱帯林減少の主な要因の一つ、アブラヤシのプランテーション。植物油のほか洗剤、チョコレート、インスタント麺など広く利用されている(日本森林技術協会提供)】

ボンジュール。前回のコラムでは、近年、危機的なレベルで熱帯林が減少していることについてご説明をさせていただきました。本コラムでは、熱帯林の保全に向けた新たな挑戦について、いくつかご紹介をさせていただきます。

昨年9月、途上国の貧困削減などに取り組む世界銀行とコンゴ政府との間で、画期的な契約が結ばれました。コンゴ政府が熱帯林の保全に取り組み、温室効果ガス(二酸化炭素、メタン等)の排出を減らすことに成功すれば、世界銀行が、その削減量を1トン当たり約5ドル、最大5000万ドル分(約55億円)を買い取るというものです。コンゴ政府の熱帯林保全の取り組みを後押しすることが狙いです。

では、そのための資金は一体どうやって捻出されるのでしょうか。実はその一部は、石油会社や航空会社などの民間企業から投資されることが期待されています。彼らは熱帯林の保全活動への投資を通じて、その削減量を買い取り、自らの削減成果の一部として活用しようと考えているのです。こうした取組を「カーボン・オフセット」と呼んでいます。

また、熱帯林減少の最大の原因となっている農業分野では、熱帯林を破壊することなく、アブラヤシ、コーヒーやカカオなどを生産する政策を「森林減少ゼロ」と名付け、グローバル企業が中心となって取り組みを始めています。

さらに、熱帯林を破壊しながらビジネスを行っている企業への投資を控えたり、逆に環境に配慮しながらビジネスを行う企業に対して重点的に投資を行ったりする「ESG投資」も、日本の公的年金運用機関(GPIF)など運用資産が百兆円を超える巨大ファンドを中心に近年急速な広がりを見せています。

目先の利益の追求ではなく、20年、50年といった先まで持続的にビジネスが行えるのか…そういったことをしっかりと考えて企業活動を行わなければ、最終的に社会全体として利益を得られないことが、関係者に広く理解されつつあるのです。

熱帯林の破壊が、地域の貧困や木材貿易だけで引き起こされていたのは昔の話です。今は急速に進む貿易自由化や過熱化する資源開発の下で、欧米、中国や日本など主要国の経済活動と密接に連動しながら熱帯林の破壊が進行しています。

熱帯林を巡る政策が保全から開発へと大きく傾き、例年、記録的な熱帯林消失が続いている現状を一体どうすれば改善することができるのでしょうか。政府やNGOだけが国際協力の一環として取り組むだけではなく、私たち一人一人の日常生活、そして企業が行うビジネスと地球規模で対策が求められる熱帯林の保全活動をリンクさせる…そんな革新的な環境政策が今、求められています。
【略歴】大仲幸作(おおなか・こうさく) 昭和49年生まれ、伊勢市出身、三重高校卒。平成11年農林水産省林野庁入庁。北海道森林管理局、在ケニア大使館、マラウイ共和国環境・天然資源省、林野庁海外林業協力室などを経て、平成30年10月から森林・気候変動対策の政策アドバイザーとしてコンゴ民主共和国環境省に勤務。アフリカ勤務は3カ国8年目。