平成から令和へと切り替わるのに合わせ、登山をはじめとするレジャーシーズンも本格的に幕開けとなった。今年のゴールデンウイークは長期休暇が取得しやすく行楽地のにぎわいも期待される一方、この時季は年間を通じても遭難など山岳事故の発生割合が高い傾向にある。関係者は登山届の提出など、事故防止に向けた十分な準備や対策を呼び掛けている。(小林哲也)
県警地域課によると、昨年県内で発生した山岳遭難事故件数は51件(前年比6件減)で、遭難者数は61人(同15人減)、死者数は7人(同4人増)となっている。このうち4、5月の発生件数と遭難者数は合計9件9人だった。また今年は3月末現在で6件の遭難事故が発生し、7人が当事者となった。
昨年の事故内訳で最も多かったのは道迷いで24人。次いで滑落が18人、病気が7人、転倒が5人、疲労が5人と続いている。
県内の山々は標高1000メートル前後の低山が多く、全国と比較しても登山初心者や経験の浅い中級者に人気が高いという。一部険しい場所はあっても大半が日帰りで下山可能となっているため、中には普段着にスニーカーなどといった軽装で、必要な荷物を持たずに入山する登山客も少なくないという。県山岳連盟の萩真生副会長(65)は「事故の多くは準備不足が原因」と話す。
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登山の準備は大きく、身体的なトレーニングと体調管理▽登山ルートの確認や計画立案▽雨具や防寒具、地図、照明など必要な装備の点検▽登山届(登山計画書)の提出―の4点が挙げられる。中でも登山届の提出割合は低く、昨年の遭難事故51件のうち、登山届を提出していたのは全体の約2割に当たる10件だけだった。
登山届はあらかじめ氏名や住所、連絡先や同行者、登山ルートや装備、携行品の有無などを記載して管轄する自治体や警察署などに提出する書類。全国では富山県や長野県などで提出を義務とする条例が施行されているが、三重県では条例化されておらず、提出は任意となっている。
登山届提出の一番の意義は、事故発生時の捜索救助の迅速化にある。登山届がなければ一から必要な情報を集めなければならず、仮に遭難者と携帯電話で連絡が取れる状況だったとしても、限られたバッテリーなどを無駄に消費する事態になりかねない。結果的に位置の特定が困難となり、救助が遅れることとなる。
最近では無料アプリを通じた登山届の提出など、簡易化に向けた取り組みも進んできているという。一方、条例化に向けては管理の難しさなどから課題も多い。萩副会長は「登山はリスクを伴うスポーツであることを理解して」と話す。
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近年は登山以外のレジャーによる事故も増えている。桑名市多度町の多度山では昨年12月、愛知県内の自営業男性=当時(70)=がマウンテンバイクを使って坂道を下り降りる「ダウンヒル」をしている最中に転落して頭を打ち、死亡する事故が発生した。
多度山を管理する同市観光文化課によると、雑誌やSNS(会員制交流サイト)の影響などで、ここ数年の間にマウンテンバイク利用を目的とした入山者が増加傾向にあるという。これに伴い、登山やトレイルランの利用者と接触しかかったなどとする相談も寄せられるようになったといい、同課では事故をきっかけに看板を登山口に設置するなどして注意喚起を図っている。
また事故以外でも、公設トイレの無駄な水使用やごみの放置など、利用者のモラル低下も目立ってきているといい、同課の担当者は「現時点では規制までは考えていないが、利用者それぞれに注意を守ってほしい」と話している。
県警は昨年4月、地域課内に山岳警備係を新設。山岳警備に関する知識を持った警察官を山岳警備指導員として指定し、山岳警備隊を持つ県内九署への指導や訓練、事故防止に向けた各種広報などを実施している。同係長の山岡瑛司警部補(31)は、「事前にしっかり計画を立て、予備装備などを持って臨んでほしい」と呼び掛けている。