<地球の片肺を守る>REDD+解説編 熱帯林保護の最後のとりで

【急速に開発が進むコンゴ盆地の熱帯林】

突然ですが、先日、韓国で開催された気候変動の国際会議で、森林について歴史的な決定が行われました。それはブラジル政府が一定期間、アマゾンで熱帯林の破壊を食い止め、温室効果ガス(二酸化炭素、メタン等)の排出を減らしたことの見返りとして、国際基金からブラジル政府に約100億円の資金が援助されることが決定したというものでした。

約200カ国が署名する気候変動の国際枠組み「パリ協定」では、途上国が熱帯林の保全などを通じて温室効果ガスの排出削減に成功した場合、資金援助を行うことを国際約束しています。この政策を、英語の頭文字をとって「REDD+」(レッドプラス)と呼んでいます。

では、なぜ熱帯林の保全が、これだけ重要な課題として認識されているのでしょうか。熱帯林は地球全体の陸地面積のわずか6%を占めるにすぎませんが、地球上の全植物が有する炭素の約6割を貯蔵し、半数以上の生物種の生息地にもなっています。その熱帯林の減少が、近年、途上国での農地拡大、薪炭生産や鉱山開発などのために危機的な水準に達しているのです。何と、1年間で日本の国土の約4割に匹敵する熱帯林が減少していることが報告されています。

そして、熱帯林が減少し、農耕や牧畜などが営まれることで排出される温室効果ガスは、産業活動による排出量よりも多く、地球全体の約2割を占めています。すなわち熱帯林の減少にストップをかけることは、最も重要な気候変動対策の一つなのです。

しかし、熱帯林の保全は大変難しい課題です。これはコンゴ盆地のように熱帯林が発展途上国の貧困地域に分布しているためです。途上国には熱帯林を保全することは経済発展の妨げになるとの考え方が大変根強く存在しています。このため、気候変動の国際交渉では、途上国と先進国の間で20年近くにわたって激しい議論が続いてきました。そしてお互いの歩み寄りの結果、やっと合意されたのが「REDD+」なのです。

「途上国に資金を援助したところで熱帯林の破壊が止まるものか!」、「膨大な資金をどうやって工面するつもりなんだ?」…読者の方々からもさまざまな声が聞こえてきそうです。ただ、私たちが理解しなければいけないこと…それは「REDD+」は熱帯林保護の最後のとりでであるということです。

現在、コンゴを含め、70カ国近くの途上国が「REDD+」に取り組むことを約束し、さまざまな活動を始めています。今回のブラジル・アマゾンへの100億円の決定は、「REDD+」にとって世界で初めてとなる成果だったのです。果たして「REDD+」は熱帯林の減少を食い止められるのか。その挑戦が今、本格的に始まろうとしています。

【略歴】大仲幸作(おおなか・こうさく) 昭和49年生まれ、伊勢市出身、三重高校卒。平成11年農林水産省林野庁入庁。北海道森林管理局、在ケニア大使館、マラウイ共和国環境・天然資源省、林野庁海外林業協力室などを経て、平成30年10月から森林・気候変動対策の政策アドバイザーとしてコンゴ民主共和国環境省に勤務。アフリカ勤務は3カ国8年目。