2019年3月23日(土)

▼ON引退とともにプロ野球から遠ざかったナンチャッテ巨人ファンで、王貞治さんの本塁打数世界記録より、長嶋茂雄さんの天覧試合満塁ホームランや、王選手がビーンボールで倒れて両軍入り乱れる乱闘になった巨人・阪神戦で、ネクストバッターズサークルから動かなかった長嶋選手が再開直後に放ったホームランにいまだしびれているのだからお話にならない

▼イチロー選手もまた、数々の大記録より、ワールド・ベースボール・クラシックにメジャーリーグ所属の日本選手が次々辞退する中で、率先して参加したことですっかり好感を持ったのだから、その引退に際し、特別の言葉の持ち合わせはない

▼思い出すのは人気ドラマ「古畑任三郎」に出演した演技だと言うと大方のイチローファンに申し訳ないが、出る以上は役になりきろうという意識の表れか、オーバーアクションが鼻についた。「役者の瘤」という随筆を読んだことがある

▼「瘤」とは、うまく演じよう、感動させようという未熟者の小ざかしい演技で、見るに堪えないのだが、これのない役者は大成しないのだそうだ。きめ細かな紙やすりでたゆまずこすり続け、消えていくのに伴い名優に近づいていく

▼野球でのイチロー選手は背伸びしてはその差を埋める努力をしてきたのだろう。カレーライスならカレーライスで毎日でも構わないという好みの性質が、並外れた努力を努力と思わぬ性格をうかがわせる。日本での最後の2試合で無安打だったのも特別な星を背負った英雄ではないことを物語るが、料理を評して器を褒めるたぐいかもしれない。