<まる見えリポート>鈴鹿市・教員が臨床心理士資格 発達課題・不登校に対応

三重県の鈴鹿市教委(中道公子教育長)と同市岸岡町の鈴鹿医療科学大学(豊田長康学長)が市内小中学校の教員らを対象に、大学院で臨床心理士の育成を図る連携協定を締結した。教員が臨床心理士の資格を取得し、児童生徒の発達課題や不登校問題などに対応する独自の取り組みは県内初めて。スクールカウンセラーの不足に対応するのが狙い。市教委では「力を付けた先生が増え、学校区のカウンセリング技術が向上することで学習環境が整っていけば子どもたちのためにもいいはず」と話し、今後の成果に期待が高まる。

同大学の大学院医療科学研究科医療科学専攻修士課程の臨床心理学分野は今年4月に開設された。同大学は入試の社会人特別選抜の中に市教委の特別推薦枠を設け、市教委から毎年2人ずつ推薦し、10人の臨床心理士を育成。市内の10中学校区に1人ずつ配置する計画。教員は週4日、勤務後自費で2年間学び、臨床心理士の受験資格を得る。

今年度選ばれたのは、子ども政策部子ども家庭支援課発達支援グループの平井智子主幹(47)、鼓ケ浦小学校の神戸淳一教諭(35)の2人。平井主幹は中学の英語教諭で昨年まで3年間、市適応指導教室けやき教室で不登校支援に携わった。同校3年目の神戸教諭は、4月から特別支援学級の担任になったばかりという。

平井主幹は「発達障害の二次障害として不登校や引きこもり、暴力につながるケースも多い。一概には言えないが、自尊感情の低い子どもたちが多く、生きづらさにつながっている部分もあるのでは。早期支援が大切」、神戸教諭は「子どもたちと関わる中で専門知識の不足を痛感する。押さえつけるのは違うと思うが、どの対応が適切か悩むことも多い」とそれぞれの立場で現場の状況を話す。

県教委によると、今年度の鈴鹿市へのスクールカウンセラーの派遣は9人。9人が小学校30校、中学校10校の計40校を中学校区単位で分担し対応する。

スクールカウンセラーの仕事は悩みを抱えた子どもやその保護者だけでなく、対応に悩む教師への助言など多岐にわたり、平成29年度県内小中高のスクールカウンセラー118人を対象にした1人あたりの年間相談件数は464・5人。決して十分な対応ができる状況とは言えない。

同大学は臨床心理学分野の大学院開設に伴い実習施設でもある付属施設として、カウンセリング機関「こころの相談センター」と精神科・心療内科を持つ「こころのクリニック」を昨年開設した。約1年間でこころの相談センターでは延べ600人ほどのケースを教員が対応、クリニックの受診者数は延べ約1100人。初診患者のうち約8割は3―18歳の子どもという。

こころの相談センターでセンター長を務める今井晥弌教授(72)は「教員が臨床心理士としての見方ができると、子どもを理解する力が増える。子どもたちにとって一番近い位置にいる現場の教員が学ぶことに、意義がある」と市の取り組みを評価する。

教員で院生という二足のわらじ生活も3カ月目。授業では実際のカウンセリング現場に同席する実習など、座学だけでなく、より具体的な実践力を養う。2人は「時間的には厳しいが、授業は楽しい。実際の子どもたちの姿と重ねて考える部分も多く、学びが深い。発見や気づきも大きい」と話す。

平井主幹は「学校教諭の立場を理解しながら、教師にも助言できるのが私たちの強みになるはず」、神戸教諭は「子どもと適切な関わり方ができれば、不登校にならずにすむこともある。関わり方のスキルを身につけることで、可能性につなげることができれば」とそれぞれ意気込みを語る。