2018年5月14日(月)

▼つとに評判の高いNHKの朝の連続小説というのをほとんど見たことがないのは世間様に申し訳ない気がするが、一つだけの例外が今再放送中の『カーネーション』である。重要な小道具の足踏みミシンは、母が内職に裁縫していた幼い頃の我が家の音である

▼母の日も、タイトル名の重要な伏線だが、男の子にとって母親とは、と作家の五木寛之さんが書いていた。「常に母であり女であるという二重性を持った存在である」。病気がちな母から子どもの頃、父親と別々に暮らすことになったらどうするか「つきつめた目の色」で聞かれたのがずっと心に残り、夫婦のトラブルと、女の匂いを感じたという。作家の鋭敏さというものか

▼忘れていた記憶がふとよみがえった。母に裁縫を教わっていた明るい女性が泣いている。この子の顔を見てくださいと母が詰め寄っていた。何が起きているのかさっぱり分からなかった。五木さんと大違いで思い出すことさえなかった。鈍感さ。無意識に封印したのかもしれない

▼「全国一斉母の日テスト」が東大生でも正解率三割程度でネットで話題という。母親の学生時代のあだ名や初恋の年齢など母に関する百問で、採点のため母親に電話し、笑みをこぼす様子が人気らしい

▼思えば、母の実相を知らぬことで人後に落ちない。生前無償の愛を注いでくれた。無償の愛は神仏のなせるわざで、神仏の実相を知りたいと思わなかったし、何より深入りしたくなかった。「母親を一人の女として見ることに慣れた子供ほど社会的な強さを持てる」―五木さんの言葉には、うなずかされる。