「迫る日本の食糧危機」語る 東大院の鈴木宣弘特任教授、本紙政経懇話会で講演 三重

【講演する鈴木氏=津市内のホテルで】

伊勢新聞政経懇話会の9月例会は18日、三重県津市新町のプラザ洞津で開いた。東京大学大学院の鈴木宣弘特任教授が「迫る日本の食糧危機~食の安全保障をどう守るか~」と題して講演した。学校給食に地元産品を取り入れるなど県や市町の独自政策が、自給率引き上げに向け国の流れを変えると呼びかけた。

鈴木氏は「自給率が低すぎる要因で一番大きいのがアメリカの政策。たくさん余った農産物を輸出している。本当に戦略的で、補助金漬けでどんどん作り、安く売ることで出口を広げている」と説明した。

また「コメが余っていると言っていたのが、急に足りないと言い出した。猛暑やインバウンド(訪日観光客)はきっかけに過ぎない。生産を減らす方向に誘導し、赤字を補填(ほてん)せず、作れない状況になっている。ちょっとしたことで不足が顕在化する」と指摘し、「備蓄すればいい。他の国はこれをやっている。やらなければいけないことは生産拡大。備蓄は国防の要」と強調した。

「インドは食料確保のため防衛的に輸出を止めている。中国は米中対立で14億人、1年半の備蓄を目指す。日本はコメの備蓄が1・5カ月分だけ」と解説。「需給が逼迫(ひっぱく)してくるのは目に見えているのに、国は農業予算を切ることばかり考え、長期的に何をしなければいけないか分かっていない」と訴え、「食糧自給体制の確立は3兆円あれば組める。防衛予算を使えばいい。農水予算は減らされ2兆円だが、以前は5兆円を超えていた」と話した。

「大規模酪農家は年間2千万円の赤字。放置すれば業界が崩壊する。稲作農家は1年働いて所得が1万円。農家の平均年齢は69歳。残された時間は多くない」と警鐘を鳴らすとともに、「学校給食に地元農産物を使う自治体がある。循環型食糧自給圏を県、市、町が独自に政策立案してほしい。国に提案していく発想で流れが変わる」と呼びかけた。

鈴木氏は志摩市出身。東京大学農学部卒業後、農林水産省に入省。九州大学大学院教授を経て、東京大学大学院農学生命科学研究科教授。今年から同特任教授。食料安全保障推進財団理事長。「食の戦争」「世界で最初に飢えるのは日本」など著書多数。