紀北でホッと一息つける空間を―。三重県紀北町東長島の大和賢二さん(43)と妻の美沙季さん(35)が先月、自家焙煎(ばいせん)のコーヒーとハンドメード雑貨を扱うキッチンカー「kiihot」を自宅駐車場で始めた。互いの趣味を融合した「新感覚の店」が、住民や観光客を楽しませている。
片上池のほとりにひっそりたたずむ一軒家。駐車場には自然に溶け込むように深緑色のキッチンカーが置かれている。自宅では元々、写真スタジオを経営していた。コロナ禍の影響で事業が行き詰まり、店を畳んで「自分探しの旅」を経て、行き着いた挑戦だった。
夫婦は娘(5つ)と愛猫2匹を連れ今年2月、自家用バスで青森から鹿児島までの日本縦断を成し遂げた。約5カ月かけて各地を巡り、人との交流を通じて「つながりが何重にも増える素晴らしさを実感した」と賢二さん。道中でキッチンカー開業の着想を得たという。
賢二さんはコーヒーを飲むのが日課で、1月から旅先で自家製の焙煎コーヒーを作っていた。生豆を通販で取り寄せ、動画投稿サイト「ユーチューブ」で焙煎の深度や入れ方を研究。縦断後、焙煎豆のネット販売を始めると「店舗でも提供したい」と思いを強めた。
7月から約1カ月半かけ、2人で所有するトラックをキッチンカーに改造した。内装は木材をふんだんに使って温かみを演出。商品を受け渡す大きな窓にもこだわった。トラック後部には、スギの一枚板で作った棚が設けられ、ハンドメード雑貨が200点ほど並ぶ。
焙煎豆はピーベリーやスプレモなど5種類を取りそろえた。賢二さんはエスプレッソへのこだわりが強く、おいしさを左右するという最上層の濃密泡「クレマ」の量と鮮度に全力を注ぐという。アイスコーヒーは水出し式と急冷式の2種類の入れ方を提供している。
雑貨店の併設は美沙季さんが提案した。美沙季さんは娘に何か手作りしたいと考え、4年前から刺しゅう作品を制作している。店内では自身の作品に加え、全国の作家15人の作品もそろえた。「焙煎の待ち時間に楽しんでもらえるような工夫をした」と力説する。
開業から1カ月を迎えて「地元の常連さんが徐々に増え、地域に定着しつつある」。開業前からSNS(交流サイト)を積極的に活用し、店だけでなく町内の魅力も発信してきた。遠方の観光客から「インスタグラムを見て来ました」と声をかけられることも多い。
前例のないキッチンカーが完成した。美沙季さんが「中に入れるキッチンカーは珍しい」と話せば、賢二さんも「焙煎の様子も間近で見られる。工場見学みたい」と呼応する。「景色を楽しみながら、こだわりの自家焙煎コーヒーを味わってほしい」と呼びかけた。
湖畔レストラン「かっぱ倶楽部」からすぐ。営業時間は午前10時―午後4時。不定休。駐車場2台。公式インスタグラムはkiihot_jikabaisen。
<記者メモ>
希少性の高さから「幸せを呼ぶ」といわれるピーベリーを注文。大学時代に喫茶店でも親しんだ苦みが少なくあっさりした味わい―。取材後に宝くじを買いました。
◇随時掲載。