<まる見えリポート>延ばせ、高齢者の運転寿命 鈴鹿の自動車学校取り組み、音楽や映像で技能改善

【指導員のアドバイスを受けながらマシンを使ってトレーニングをする高齢者ら=鈴鹿市寺家6丁目の中勢自動車学校で】

三重県鈴鹿市寺家6丁目の中勢自動車学校(櫛田拓真社長)が、高齢者の認知機能、運動機能向上をサポートする独自のトレーニングプログラム「中勢ドライバーズフィットネス」を開設し、約3カ月が経過した。トレーニングを通じて、安全に運転できる期間(運転寿命)を延ばす高齢者の再教育に、自動車学校が取り組むのは全国的にも珍しいという。

21日から始まる「秋の全国交通安全運動」を前に、科学的根拠に基づく運転寿命延伸による交通事故防止に向けた取り組みを取材した。

国立長寿医療研究センターの調査によると、運転を中止した高齢者は運転を継続していた高齢者と比較し、要介護状態になる危険性が約8倍に上昇するという。櫛田社長(37)は「運転寿命を延ばすことが、健康寿命を延ばすことにもつながる」と話す。

同校の独自プログラムは、音楽や映像に合わせて運動能力や認知機能の維持、交通リテラシー向上につなげる「SD(スマートドライバー)エクササイズ」、一人一人に合わせて必要な筋力を鍛える「ドライバーズフィットネス」で構成。いずれも鈴鹿医療科学大保健衛生学部リハビリテーション学科作業療法学専攻の野口佑太助教(38)が監修。SDエクササイズで使用する映像や音楽はカラオケ事業などを展開する第一興商(本社・東京都品川区)が協力し、共同開発した。

SDエクササイズは、スポーツ庁の「令和5年度Sport in Life 推進プロジェクト」の採択事業で、運転技能の向上を検証し、運転技能改善の効果を立証した。

検証研究は、1週間の運転頻度約5日、1日の平均運転時間約1時間という平均年齢76・6歳の41人(男性26人、女性15人)を対象に、令和5年11月から同6年3月の期間で、SDエクササイズ講座を1人あたり月1回、3カ月間継続して実施。

実施前後で加齢に伴う身体機能の低下を判定する運転技能検査の結果を測定し、検査結果が26・7点向上した。野口助教は「中でも、安全確認やハンドル操作技能が向上したことで、運転技能の結果が改善した」とデータを分析し、「講座参加は月1回だったが、参加することで普段の自分の運転にも気をつける。内容を生活に落とし込むことでより効果が実感できたのではないか」と話す。

9月6日の両講座を見学した。SDエクササイズには4人が参加し、道路標識や信号の動きに合わせた運動や記憶問題などを和気あいあいとした雰囲気の中で楽しんだ。

ドライバーズフィットネスには2人が参加し、アドバイザーの指導を受けながら、個々の状態に合わせたトレーニングにいそしんでいた。

両講座に初参加という同市越知町の太田アツ子さん(79)は「交通が不便で自動車に頼らざるを得ない。普段から安全運転を心がけているが、信号がない交差点の右折は怖い」と話す。

10月からは運転に必要な筋力を鍛えるドライバーズフィットネスでの検証研究を始める。約半年かけて、参加者の運転能力や認知機能を中心に改善度を調査するという。

作業療法士でもある野口助教は「『高齢でも普段運転できる人』はリハビリテーションの対象にはならないので、医療機関で直接介入することは難しい」と現状の課題にふれ、「長く運転したい人に、適切な介入と適切な評価ができる仕組みを作りたい」と意気込みを語った。